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リサーチ・フォーカス No.2024-006

実装に向け動き出したEUの「欧州デジタルIDウォレット」 ― わが国が目指すデジタル ID エコシステムの参考事例として ―

2024年05月08日 野村敦子


EU では、デジタル ID とトラストサービスに関する eIDAS 規則が改正され、新たに「欧州デジタル ID ウォレット」に関する規定が盛り込まれた。欧州デジタル IDウォレットは、スマートフォンなどのデバイスに利用者のデジタル ID や住所、年齢などの属性情報、資格情報などを保存・管理し、オンライン・対面のどちらでも利用可能とするアプリであり、これにより、安全・確実かつ簡便に本人であることを証明したり、自己に関する各種情報を提示し、国境を越えて様々なサービスの利用が可能になる。

EU でデジタル ID ウォレットが導入されることになった背景には、eIDAS 規則においてデジタル ID は加盟各国の自発的な取り組みとされたため、その認知度や普及が低調で、サービス不足、相互承認・相互接続の停滞など、様々な課題が顕在化したことがある。改正案では「欧州におけるデジタル ID の枠組み確立」が前面に打ち出され、全加盟国は 2026 年までに、利用者にとって利便性・安全性の高い本人確認の手段として「欧州デジタル ID ウォレット」を導入することが義務付けられた。

デジタル ID ウォレットの目的の一つとして、市民のデータ主権の確保がある。すなわち、巨大プラットフォーム企業などにデータを寡占されるのではなく、個人が自分の情報・データを自身で管理・コントロールできるようにすることである。現在、四つの大規模プロジェクトが実施されており、市民の日常生活に即した様々なユースケースを通じて、技術的な検証や制度の改善などが行われている。

EU の取り組みからわが国が学ぶべき点として、①各国が従うべきルールやプロセスが明確に示されている点、②共通の技術仕様や相互承認・相互接続の仕組みにより、どの国でも同じようにデジタル ID を使って多様なサービスにアクセスできる点、③「個人のデータ主権」を重視している点、④IC カードではなく日頃から携行しているスマートフォンの使用が前提とされている点、などが指摘できる。また、市民にウォレットの利用を義務付けるものではなく、使わない選択を許容している点も重要である。わが国でも各地で、マイナンバーカードを補完する地域独自のデジタル ID を導入しようという動きが登場しているが、EU を参考に、地域の取り組みを尊重しつつ、利用者から見ればどこでも同じように利用が可能なデジタル IDのエコシステムを構築していくことが望まれる。

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