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共生社会の商品開発は認知症当事者も参画 ~「誰もが使える」は認知症以外も含む成長市場~

2024年02月01日 高橋光進


必要に迫られる「共生社会」の実現
 国内の認知症の人の数は、2025年には700万人、65歳以上の高齢者の約5人に1人に達すると試算される。全国の小学校の児童数約605万人(2023年度時点)よりも多い認知症の人が、ごく当たり前に存在する時代が既に訪れている。
 2024年1月に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」には、日本の目指すべき社会像として、「認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し,相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会」ということが明記された。認知症を防ぎ切ることが難しい中では、この「共生社会」を実現させることが必要であり、取り組みが進むことが期待される。

認知症の人は重要な「顧客」
 経済産業省では、認知症の人が企業の開発プロセスに「参画」し、認知症になっても使いやすい製品・サービスを企業と「共創」する「当事者参画型開発」の普及に取り組み始めた。この取り組みは「オレンジ・イノベーションプロジェクト」と名付けられ、2023年度は17の企業・団体が全国で認知症の人と共に、認知症の人の生活課題の解決ややりたいことの実現に資する製品・サービスの開発を行っている。
 オレンジ・イノベーションプロジェクトの大きな特徴の一つとして、当事者参画型開発を、社会貢献活動としてのみならず、今後成長する「産業」「ビジネス」として捉えている点が挙げられる。
 従来、企業は認知症の人を「助けないといけない人」「特別な配慮をしないといけない人」として、社会貢献活動の一環としての支援を行うことはあった。しかし、認知症の人がごく当たり前にいる時代となり、認知症になっても使いやすい製品・サービスを開発していくことは、企業の「ビジネス」として極めて重要な位置づけを占めるようになったのである。
 認知症の人の生活における課題は多岐にわたるが、多くはまだ解決されていない。700万人の規模を有する潜在顧客の未充足のニーズの存在は、企業にとっては大きなビジネスチャンスともいえる。認知症になっても使いやすい製品・サービスの市場は、全体で数千億~数兆円の規模になると見込まれており、急速な高齢化が進展する日本における成長産業の一つになると期待される。
 当事者参画型開発に取り組む企業も現れ始めた。例えば、株式会社大醐では、認知症の人と共に、かかと、左右・前後ろもない、履き口が分かりやすい靴下を開発した。また、リンナイ株式会社では、認知症の人や支援者の声を取り入れて、弱火での炎の認識しやすさや鍋の適切な位置への置きやすさなどの特長を持つガスコンロを開発している。
 これらの商品は、特に認知症の人専用というカテゴリーではなく、靴下は「どんな人でも履きやすい魔法の靴下」として一般向けに、ガスコンロは「誰でも安心して使えるガスコンロ」としてシニア全般向けに販売されている。認知症の有無を問わず、靴下の着脱やガスコンロの利用に関して課題を有する多様な顧客を対象とする商品と位置付け、より広い市場で販売するためである。
 認知症の人に使いやすい製品・サービスは、障がい者など、多様な人々にとっても使いやすいものとなっていることが多く、潜在的な需要規模は大きい。また、こうした商品は、今後高齢化が進むアジア諸国をはじめとしたグローバルな市場への展開も期待できる。

多様な主体の連携によるナレッジ共有が必要
 今のところ、認知症の人を顧客と捉えたビジネスを本格的に展開する企業は多くない。背景には、「自社のビジネスと認知症や認知症の人は関係ない」といった企業側の意識が根強く残っていることがあると考えられる。
 もちろん、認知症に関する取り組みを企業が単独で進めていくのは容易ではない。冒頭に挙げた認知症基本法においても、国、地方公共団体、民間団体などの主体が企業と連携して取り組むことの必要性が強調されている。
 共生社会の実現には、認知症の人やその支援者の生活課題ややりたいことを「ビジネスの種」として、各方面に共有される仕組みが欠かせない。認知症関連のビジネスに挑戦する企業のほか、国や地方公共団体なども含めた多様な主体が、当事者参画型開発に関するナレッジやノウハウを共有していくためのプラットフォームを確立させることが期待される。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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