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高齢住民の増加・多様化を見据え、地方行政は内外連携を

2024年05月14日 山崎香織


 2024年4月、国立社会保障・人口問題研究所は2020~2050年の日本の世帯数の将来推計(※1)を公表した。世帯の単独化の進展や高齢世帯数の伸びなど、これからの社会像を捉える上で重要な情報が提示されている。この推計は5年ごとに実施されるが、今回の推計方法では85歳以上の世帯の見通しの重要性を鑑み、85歳以上についても 85~89 歳、90~94 歳、95~99 歳、100 歳以上の区分が導入されたのが注目点だ。
 高齢者という括りには65歳から100歳以上の方まで実に幅広い年齢層が含まれる。このため、一人ひとりの状態像や世帯の状況、ライフスタイルは多様で、実態は捉えにくい。65歳以上と75歳以上でデータを分けて集計されることは増えてきたが、今回、介護などのニーズが高まる85歳以上についても本推計のように細分化されたことで、高齢者を対象とした行政の施策やサービスを考える際に解像度を一層高められると期待できる。
 介護保険制度が始まった2000年に17.4%だった高齢化率は今や29.1%に達し(※2)、2040年には34.8%へと上昇することが見込まれる(※3)。高齢化率がますます高まり、その実像も多様化する中、地域の様々な施策・活動を考えるには高齢者の関わりや彼らの生活への影響をきめ細かく考えることは不可欠なのである。

 高齢者向け施策はこれまで保健福祉や介護関連部署が、各々個別に立案・実施してきたが、これからは住民の暮らしに関わるさまざまな部署が、保健福祉や介護関連部署と連携して施策を推進する、あるいは高齢者の増加や多様性を前提として自部署の施策を立案することがより重要になる。しかし、役割が異なる部署を超えて連携することはどんな組織でも一筋縄ではいかない。各部署としての優先順位が異なったり、これまでの分担のあり方に揺らぎを起こしたりすることから、合意形成を図るのが簡単ではないからだ。

 連携に向けた第一歩としては、まず少人数で話してみて少しずつ輪が広がるアプローチもあれば、トップマネジメントの賛同を得て一堂に会する場を作るアプローチもある。例えば、当社が取りまとめた「地域包括ケアシステム~効果的な施策を展開するための考え方の点検ツール~」を活用して、第9期介護保険事業計画策定に向けた振り返りを行った複数の自治体では、自分たちがやりやすい方法を模索しながら庁内、そして庁外のさまざまな関係者と連携を深めていったという事例が積み重ねられている。(「効果的な施策の展開に向けて ~点検ツールの活用事例集~」
 それら自治体の試行錯誤はまさに「雨垂れ石を穿つ」を体現しており、部署や領域の境界を越えて連携を生み出そうとする人にとっての励みとなるだろう。縦割り行政の是正、地方行政における横軸機能発揮は、長らく指摘されてきたところであるが、人口減少、高齢化、財政逼迫が抜き差しならない状況になっている現在、その実現には一刻の猶予もない。高齢者向け施策の領域は、その最前線だという認識を、関係者で是非、共有したい。

(※1) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和6(2024)年推計-」
(※2) 総務省「人口推計」(2023年10月1日現在(確定値))
(※3) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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