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「地域計画」の策定と自律協生の地域づくり

2024年05月14日 多田理紗子


 2023年4月、農業経営基盤強化促進法等の一部が改正された。改正のポイントの一つは、これまで「人・農地プラン」と呼ばれていた事項が「地域計画」と名を変え、策定が義務づけられたことである。

 「人・農地プラン」は2012年から策定が開始されたもので、農業地域の人と農地の問題を解決するための「未来の設計図」と言われてきた。日本の農地は伝統的に小規模分散型で、一人の農業者の所有する土地が細かく分散してあちこちに存在する形が一般的だったが、農業者が減少する中で、農地の集積・集約化が目指されるようになった。耕作する農地が大きい方が農業機械を効率的に使うことができ、農地同士が近い方が農作業時間を短縮できる。一農業者が耕作する農地面積を売買や貸借により拡大し(農地の集積)、農業者間で利用する農地を交換する等して分散を解消する(農地の集約)ことで、農作業を効率的に行うことが、政策的に重視されるようになった。

 農地の集積・集約化を進めるには、地域での合意が欠かせない。そこで政策的に推進されたのが「人・農地プラン」で、地域農業の将来のあり方、具体的には、近い将来どのくらいの農業者が離農しどこの農地が空くか、空いた農地を耕作できるのは誰か、今後地域農業の中心となっていく経営体はどこか、といったことを地域で話し合い、明確化することが目指された。策定の目標は、将来的に地域農業の中心となる個人・組織に対して、農地をできるだけまとまった形で任せていけるよう、プランとして地域で合意しておくことだとされてきた。

 これまで、「人・農地プラン」は任意で策定することになっていたが、今後、農業者数の減少と高齢化がいっそう進むことが見込まれるなか、より実効性のある計画になるよう冒頭に触れた法改正が行われた。市町村には「地域計画」という名称で、地域農業の将来のあり方を検討し、策定・公表することが義務づけられたのである。策定の期限は2025年度末までで、地域計画の策定にあたっては、多様なステークホルダーが集まる「協議の場」を設置して地域農業について話し合うことが求められている。参加者は農業者、農業協同組合、地域組織等のほか、農産物の販売先業者、食生活改善推進員、子供等の幅広い関係者が想定されている。農業者については、家族の代表者以外に後継者や配偶者の参加も推奨されており、多様な視点を踏まえて計画を策定することが求められている。

 当社では、「自律協生」を掲げた活動を進めている。その中で「自律協生の地域づくり」として、行政任せ・企業任せではなく、住民自らがインフラや公的サービスの管理・運営に参加し、自分たちの暮らしを守り育てる地域の実現を目指している。こうした地域づくりを進めることにより、多様な個人がそれぞれの本領を発揮して生きられる社会、すなわち「自律協生社会」を実現したいと考えている。本稿のテーマである「地域計画」で言えば、計画の策定・公表が義務づけられている市町村だけでも、将来の地域農業を引っ張っていく農業者だけでもなく、地域で農業に関わり得るさまざまな人々が参加して多様な観点から地域の将来を考えていくことが、自律協生的な地域づくりの鍵になるはずだ。

 今年の春は、「地域計画」の策定期間の中間地点である。農林水産省の調査によれば、策定が求められる市町村のうち89%が2023年度内に計画策定に着手する意向を示しているものの、2024年3月末時点で策定が完了する見込みの市町村は全体の14%であった。逆に言えば、2024年度は各地域で「地域計画」の策定が進む年となるだろう。「地域計画」の策定を通して、各地で自律協生的な動きが生まれることを期待したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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