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農村における自律協生型の再生可能エネルギー活用モデル

2024年04月09日 三輪泰史


 農林水産省によるみどりの食料システム戦略の公表や、食料・農業・農村基本法の改正の検証・審議など、農業・農村のグリーン化の動きが加速している。同戦略では2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッションを実現することを大目標の一つに掲げており、それを受けて農村地域における再生可能エネルギーの活用が進められている。例として、農地で太陽光発電と農作物栽培を同時に行う営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)や、用水路に設置する小水力発電などが徐々に増加している。
 地域内で生み出された再生可能エネルギーは、一般的には農業者が自ら利用する(自家消費)か、大手電力会社に売電されるが、農業振興・地域振興の観点からはもう一工夫が求められる。なぜなら、農業者が自家消費して残った分を売電する場合、農村内では発電設備を設置した農業者しか再生可能エネルギー利用に関与しないため、地域ぐるみの活動になりにくいからである。
 日本総研では、“企業や市民がそれぞれ他者に提供できる価値を育み、提供及び受領しあうこと”を「自律協生」と呼び、地域の特性に合わせてさまざまな個が共創する「自律協生型の地域活性化」を推進している。自律協生の観点から、地域の農業者や住民が再生可能エネルギーを皆で有効活用するモデルを以下に例示しよう。
 自律協生型の再生可能エネルギー利用においては、近隣の農業者をいかに面的に巻き込めるかが重要となる。地域内の多くの農業者が再生可能エネルギーを利用すれば、地域内の温室効果ガスの発生量を抑えることができる。さらに、地域内で環境に優しい農産物の生産が面的に拡大すれば、その付加価値を前面に打ち出した新たな地域エコブランドも創出可能である。
 農業者間で直接的に電力を売買することは法律で規制されているため、地域で生み出した再生可能エネルギーを面的に広く利用する必要があり、例えば再生可能エネルギーを充電した農機を貸し出すことや、再生可能エネルギーを充電した農機用バッテリーを貸し出すといった工夫が求められる。加えて、農業支援サービスの仕組み(農作業のアウトソーシング、農機シェアリング等)を活用し、再生可能エネルギーを充電したスマート農機を用いて近隣農業者の作業を代行することによって、実質的に地域内の複数の農業者で再生可能エネルギーを広く利用することも可能となる。みどりの食料システム戦略の掲げる意欲的な目標の達成には、今後の農村地域において、地域内の多くの農業者が参画できる自律協生型の“再生可能エネルギーシェアリング”を新たな柱に育てることが重要となる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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