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ビューポイント No.2023-027

EU人権・環境デューディリジェンス指令採択を巡る混乱とその背景

2024年03月21日 森口善正


企業のサプライチェーンにおける人権・環境デューディリジェンスを義務づけるEU の「企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令」(CSDDD)案については、2023 年 12 月に欧州議会と EU 理事会が採択で暫定合意していた。しかし、2024 年 2 月の EU 理事会においてドイツやイタリア等の諸国が採択に反対したため、CSDDD 案は土壇場で事実上の廃案となる危機に直面した。2024 年 6 月の欧州議会選挙では欧州議会の右傾化が予想されており、
CSDDD 案を現在の議会会期中に採択できなければ、採択機運が消失してしまう恐れがあった。こうした事態を受けて、CSDDD 適用対象企業を大幅に絞り込む等の修正が急遽実施された結果、2024 年 3 月開催の EU 理事会において修正案が採択された。これにより、CSDDDは 2024 年 4 月に欧州議会で採択され成立する見込みとなった。

ドイツやイタリア等の諸国が CSDDD 案の採択に反対した背景には、欧州産業界の CSDDD 案に対する根強い不満や、2024 年 6 月の欧州議会選挙を控えた政治的思惑がある。ドイツ産業界は、CSDDD 案について、①ドイツ・サプライチェーン法対比、より幅広い企業に適用され中小企業への影響が大きいこと、②企業と直接契約関係にない間接的なビジネス・パートナーに対しても人権・環境デューディリジェンスの実施を義務づけていること、③間接的なビジネス・パートナーがもたらした人権侵害や環境破壊についても企業に民事上の損害賠償責任を負わせていること、等を批判していた。そのうえで、CSDDD 案が求める企業の広範な義務と責任は、企業の海外撤退を促し国際競争力の低下をもたらす、と主張していた。根底では、景気低迷が持続するなか、EU が策定する過剰規制と膨大な官僚主義が企業の競争力を損なっているとの問題意識も CSDDD 案への反対に繋がっていた。

最終局面における妥協の結果、適用対象企業は大幅に限定されることになったものの、EU による CSDDD 採択は、
2011 年 3 月の国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」策定以来の画期的な出来事といえる。また、主要加盟国による独自立法により域内市場における規制の細分化が進みつつあったなかで、ルールとその運用の共通化が図られることは、企業による一元的で効率的なコンプライアンス運営を可能にし、公平な競争条件の確立や民事上の責任を巡る法的確実性の確保に寄与しよう。

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