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企業におけるダイバーシティ&インクルージョン推進:的確な現状把握の重要性

2024年03月14日 石井隆介、佐久間瑞希、山名景子、廖苗蕾


1.企業がダイバーシティ&インクルージョン推進を求められる背景
 多くの企業においてダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みは「やった方が良いこと」から「やらなければならないこと」に変わってきている。この要因の一つとして人的資本経営への注目の高まりが挙げられる。経済産業省の「人的資本経営に向けた検討会」の報告書である「人材版伊藤レポート2.0」では「中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションを生み出すことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせである。このため専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込むことが必要となる。(※1)」との言及があり、経営戦略としてのD&Iの重要性が明示された。また、有価証券報告書において、人材の多様性を示す指標として「女性管理職比率」「育児休業取得率」「男女間賃金格差」の開示が求められるようになったことも、企業にD&I推進を迫る外部要因になっている。
 企業を取り巻くステークホルダーもD&I推進に注目している。例えば、2022年度の内閣府の調査によると、65.4%の機関投資家等が投資判断において「女性活躍情報を活用している」と答えている。(全てにおいて活用している:8.1%、一部で活用している:57.3%)(※2)また、2022年に株式会社マイナビが行った調査によると、就職先選定時に「企業の『ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)』の取り組みを知ると志望度は上がりますか」との質問に対し、2024年卒業予定の大学生・大学院生の63.2%が「志望度が上がる」と答えている。(志望度が上がる:21.3%、どちらかといえば志望度は上がる:41.9%)(※3)。このように企業のD&Iの取り組みは、投資先や就職先を選定する上での軸の一つとして認識されるようになっている。

2.各企業のD&I推進の取り組み状況
 企業のD&I推進がより一層求められるようになってきた中、ホームページや統合報告書、ESGレポート、Human Capital Report等に具体的なD&I推進の取り組み情報を記載する企業も増えている。例えば、「障がい者雇用率」「女性管理職比率」のような指標だけを記載するのではなく、「何のためにD&Iを推進するのか」「どうやって達成するのか」など目指す姿と達成方法を具体的に示す企業が現れている。また、「自社の社員に向けた取り組み」「社外への貢献」「自社の製品・サービスを活用したD&I社会の実現」などの視点からD&I推進をとらえ、それぞれについて詳しく述べている例も見られる。このように、具体的かつ実効性の高い計画策定を実施する企業が増加する中で、漠然とした情報開示や目標の未達に対する外部の視線は今後ますます厳しくなっていくだろう。

3.D&I推進に向けた現状把握
 D&I推進においては、現状把握を十分に行わずに目標や計画を策定してしまうというケースが多くみられる。例えば、女性管理職比率の向上を目標に掲げ、女性を登用してリーダーシップ開発を行うことを計画するが、実は女性社員の多くが管理職になりたいと考えておらず、ハレーションが生じてしまうようなことが起こる。本来は、「なぜ女性が管理職を目指したくないのか」を深堀していく必要があり、過重な労働時間、ロールモデルの不在、そもそも男女問わず管理職に魅力がない等、どこに課題があるかを把握していくことが重要となる。また、D&I推進は女性等に限った話ではなく、「誰もが働きやすく・活躍できる」環境を目指すことである。例えば、モノの見方や考え方の違いから働きづらさを感じている、または、そのような違いを表面化できない雰囲気があることによって、建設的な議論が起こりづらい環境が生じている等のケースも考えられる。まずは、現状把握・分析を丁寧に実施することにより、課題を明確にし、真に社員が求めるD&I推進計画を策定・実施することが望ましい。

4.D&Iサーベイ
 最後に、D&I推進における現状把握のツールとして日本総研が開発したD&Iサーベイを紹介する。本サーベイでは、企業のD&I推進の状況をDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)、Belonging(帰属意識)の指標に基づいて測定する。



 このサーベイは施策の観点だけでなく、風土の観点からも課題を抽出するところが特徴である。D&I推進にあたっては、制度や仕組みを整えたとしても、アンコンシャスバイアス等によってそれを活用しづらい状況等が起きやすい。例えば、男性が育児休業を取得することは、制度上は可能だが、「取りづらい雰囲気がある」という話はよく聞かれる。実際に、令和4年度の厚生労働省委託調査では、男性(正社員・職員)が「育児休業制度を取得しなかった理由」として「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから(22.5%)」が2番目に多くなっている。(最も多い理由は「収入を減らしたくなかったから(39.9%)」)(※4)
 従って、制度や仕組み上の課題だけではなく、個人や組織が有しているバイアスの状況を把握し、改善につなげることが重要となる。まずはサーベイで全社的な課題のおおよその全貌をつかみ、その後、D&I推進ワーキンググループやヒアリング等を通して具体化していく進め方を推奨したい。
 D&I推進は「誰もがありのままの状態で生きられる社会を作るために企業は何ができるか」を検討することと言い換えられる。この問いに向き合うためには、まずは自社の多様な社員が公平な機会・結果を得られ、共に尊重し合え、安心して働ける環境を作っていくことが不可欠である。D&Iサーベイは、自社の多様な社員の声に耳を傾ける手段として有効であると考えている。

(※1) 経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0」
(※2) 内閣府「ジェンダー投資に関する調査研究(2022年度)」
(※3) 株式会社マイナビ「Z世代の就活生の『企業のダイバーシティの取組』の注目点が判明する」
(※4) 株式会社日本能率協会総合研究所 「厚生労働省委託事業 令和4年度 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書 〈労働者調査〉」(令和5年3月)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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