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EV電池サーキュラーエコノミーを促進する『スマートユース』協議会

2024年03月12日 木通秀樹


 近年、サーキュラーエコノミー(以下CE)が注目されている。気候変動や海洋プラスチック汚染等の問題の根本原因の一つである、大量生産大量廃棄の経済モデルの欠点を克服する新たな成長モデルとして期待されているからである。こうしたCEの潮流において、特に注目されている対象が電気自動車(以下EV)であろう。電池需要の大幅な増加により、今後資源ひっ迫が危惧されるため、再生利用が必須となっているからである。欧州では、23年8月に、電池規制が施行され、段階的な再生材料の使用量の明記などが義務付けられた。米国は、23年4月にインフレ抑制法(IRA)のEV条項を発効し、電池資源の採掘または再生による調達先地域を限定するとともに、大規模な補助制度を導入した。
 EV電池の資源循環価値が注目される一方で、国内では使用時の品質不安性などから中古EVやリユース電池の利用が進まず、国内資源が海外流出している。これにより、国内の資源循環が進まない状況にとどまらず、中古EVの残価低下により新車EVの販売やリースも進め難い状況となっており、EVの普及拡大にも悪影響を及ぼしている。

 こうした背景を受けて、当社はEV電池CEの促進策を提言するために、昨年11月と今年2月にEV電池の「スマートユース」フォーラムを開催した。スマートユースとは、資源を確保してEVを普及するために、ユーザーが残存能力や安全性を管理できるようにし、安心して「賢い利用(スマートユース)」を可能にすることで、中古EVやリユース電池を積極的に利用できるようにしようというものである。
 23年11月には、経産省、環境省の講演者から政策動向やスマートユースへの期待、東京大学よりスマートユースを後押しする評価と標準化、株式会社JERAよりリユース電池利用の考え方と最新技術を、各々紹介頂き、あわせて標準化の重要性なども指摘頂いた。また、筆者からスマートユースの考え方を提示し、アンケートでは95%の方から考え方への賛同を頂いた。
 今年2月には、新車EV導入を先導するASKUL LOGIST株式会社、中古EV販売を推進する株式会社IDOM、リユース電池導入を推進する伊藤忠商事株式会社、ブロックチェーンを用いた情報連携を推進するカウラ株式会社の方々から、現状の課題や市場動向に関して講演を頂いた。また、筆者からスマートユースのユーザー意義と連携を促進する「スマートユース協議会」の構想を提示した。アンケートでは90%程度の方に協議会発足への賛同を頂いた。(※アーカイブ公開)第3回フォーラムも4月に予定している。

 スマートユースを実現して、ユーザーを含めたCEエコシステムを始動させるために必要なのが、利用者の適切な連携である。というのは、例えば、中古EVの国内利用が進めば、中古の下取り価格が上昇する。それが新車EVのリースアップ時の残価を上げることになり、ひいては新車EVの導入を促進することになる。また、中古EV利用の際に効率的に電池を利用すれば、リユース電池の価値を向上できる。こうなれば、EV電池の海外流出を防ぎ、リユース電池、再生材料の利用を促進できるようになる。このように、CEではエコシステムの相互影響が大きく、こうした相互影響を軸に市場関係者が連携していくことが有効なのだ。
 こうした新市場で多くの企業が事業機会を獲得するためには、エコシステムの全体像を共有し、官民でアジャイルな改善を前提に制度検討などを行い、仲間づくりを促進する仕組みが必要になる。そのために、当社では「スマートユース協議会」の組成を提案している。
 協議会では、市場動向を把握して関係者の連携を促進するために、国内外の市場や技術の動向の共有や各社活動の紹介を行う。加えて、実際の事業展開や企業価値向上のための仕組み構築を進める。事業展開の仕組みとしては、各種の利用段階の品質管理や安全管理手法の規格化、もしくは標準化の支援を行い、実際のプロジェクト組成の支援を行う。企業価値向上の仕組みとしては、中古利用や資源循環によるCO2削減効果の算定支援、CO2削減のみならず循環貢献指標の設定による企業のCE貢献度を明確化することを想定する。これにより、安心安全に中古品や再生品を活用できるようにして、企業の価値向上に貢献する場を組成することを目指す。

 CEはサステナビリティ志向に対応するばかりでなく、新たな市場創出が可能な有望成長分野となる。従来、CEはリサイクルや解体等の供給側の静脈産業の舞台と捉えられることが多かったが、今後は、中古EVやリユース電池等に係るシェアや保証など利用側サービスに携わるビジネスも創出されよう。日本国内ではEV市場は黎明期であるが、それは、CE市場がまさにこれから立ち上がる状況にあることを意味する。今後、協議会等の場を活用して社会基盤を整備し、ネットワークを拡大することで、多くの企業が市場に参入する状況が期待される。

(※アーカイブ公開)
第1回 スマートユースフォーラム ダイジェスト版
第1回 EV電池「スマートユース」フォーラム
第2回 EV電池「スマートユース」フォーラム


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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