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エンゲージメント向上の取り組み方

2024年03月05日 足立知美、石井隆介井上達夫、大矢知亮、林浩二、山名景子


エンゲージメントとは何か
 エンゲージメントとは「婚約」「誓約」「約束」「契約」といった意味を持つ言葉である。特に人事・組織の領域では、ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントという2つの概念が存在する。ワークエンゲージメントはユトレヒト大学のSchaufeli教授らが提唱した概念であり、熱意・没頭・活力の3つがそろった状態とされる(※1)。個人が仕事に向き合う上でのポジティブな心理状態を指すものとイメージすれば分かりやすいだろう。一方、従業員エンゲージメントは統一的な定義は存在しないが、組織への愛着や誇り、組織へのコミットメント、組織に対する自己効力感等を含んだ概念であり、個人が組織に対して抱くポジティブな心理状態と整理できる。

エンゲージメントに注目が集まる背景
 ここ数年、日本でエンゲージメントが耳目を集めているが、その背景は何だろうか。
 まず、米ギャラップ社を始めとするいくつかの調査により、日本企業のエンゲージメントが諸外国に比べて低水準であると示されたことが挙げられる。東アジア圏は国際的にみてもエンゲージメントが低いが、日本はその中でも輪をかけて低水準とされている(※2)。「日本人は真面目で勤勉」という漠然と抱かれてきたイメージが否定される結果であったことからセンセーショナルに受け止められたように思われる。
 また、エンゲージメントが企業業績や離職率に影響を及ぼすことが分かってきたことも挙げられるだろう。エンゲージメントが高い企業はそうでない企業に比べ、収益性や生産性、顧客満足度等に秀でており、離職率や欠勤率が低いとされている(※3)。また、エンゲージメントが高い従業員は、単に満足度の高い従業員に比べて生産性が高いことを示す調査も存在する(※4)
 さらに、人的資本経営の必要性を説いた「人材版伊藤レポート2.0」においてエンゲージメントが取り上げられたことも挙げられるだろう(※5)。本レポートでは、生産性の向上やイノベーションの創出には個人や組織の活性化が不可欠として、エンゲージメント向上の必要性が訴えられている。このレポートをきっかけとしてエンゲージメントに関する情報開示が進展したことも特筆すべきであろう。
 最後に、グローバル・レベルでみると、短期的な利益を追求するだけでなく長期的な企業価値向上の視点を持って、顧客や投資家はもとより従業員、行政、社会などさまざまなステークホルダーに応える“サステナブル人事(Sustainable Human Resource Management)”に注目が集まっていることも重要である(※6)。従業員がのびのびと持続的に働くことができる環境を構築しなければ、サステナブル人事の実現はおぼつかない。そのための前提として、エンゲージメント向上が欠くべからざる条件になっているのである。

エンゲージメント向上の取り組み
 エンゲージメント向上の取り組みはエンゲージメントサーベイによる現状把握から着手することが一般的である。エンゲージメントは目に見えないものであるからこそ、定時定点で状況を測定し、取り組みがうまく進んでいるのか否かを把握することが重要になる。また、社内外のステークホルダーに対して取り組み状況を説明する際にもエンゲージメントサーベイの結果が利用される。
 エンゲージメントサーベイはあらかじめ用意された調査票を使用して実施する場合と、新規に調査票を設計して実施する場合の2通りのやり方がある。前者の場合は比較的短期間かつ安価に実施可能であり、まず広く浅く課題を特定したいといったニーズに合う。日本総研ではワークエンゲージメント研究における仕事の要求度・資源モデル(ワークエンゲージメントを仕事と個人の資源、および、仕事の状況から説明するもの。JD-Rモデルとして知られる。)を参考に設計した「JRIエンゲージメントサーベイ」というパッケージを用意しており、50程度の質問からエンゲージメントの状況を確認できる(※7)。後者の場合は個社の状況に合わせた調査が可能であり、特定のテーマを深掘りしたいといったニーズに向く。



 エンゲージメントサーベイを実施した後は、結果を分析し、課題を抽出する。所属や年代等のセグメント比較、カテゴリ間の相関分析、決定木分析等のデータマイニング手法は分析の代表的な手法である。また、自由記述欄は組織の状況を理解する上で重要な示唆を与えてくれることが多いため、丹念に読み込むことが必要になる。組織の課題は複雑に絡まり合って現出してくるため、表層的な課題に飛びつかず、課題間の因果関係を読み解くことが重要である。
 次に課題解決に向けた施策を検討する。施策と言うと人事制度の見直しやコミュニケーションの活性化といったものが想起されやすいが、エンゲージメント向上においては必ずしもそのような施策に限らない。例えば、タフアサインメントやリスキリングによる成長機会の提供、情報の可視化を通じた部門間連携の促進、社史の編纂やアルムナイ(退職したOB/OG)との交流を通じた自社の理解促進、プロボノ(仕事のスキルを活かした社会貢献)や地域貢献等の非営利活動の推奨など、さまざまな施策が検討できる。いずれにしても、課題を正しく定義した上で施策につなげることが肝要であり、定期的なエンゲージメントサーベイにより軌道修正を行いながら継続的に施策を推進する必要がある。



(※1) 島津明人「職場のポジティブ心理学:ワーク・エンゲイジメントの視点から」(2009)
(※2) 経済産業省『第1回 未来人材会議』事務局資料(2021)
(※3) Gallup「State of the Global Workplace」(2017)
(※4) Eric Garton and Michael Mankins「Engaging Your Employees Is Good, but Don’t Stop There」(2015)
(※5) 経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~」(2022)
(※6) 林浩二・髙橋千亜希「サステナブル人事 ―SDGs時代の新しい人材マネジメント」(WEB労政時報(2022)
(※7) コンサルティングサービスメニュー – エンゲージメント向上プログラム

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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