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「環境価値」の活用による地域脱炭素 ~脱炭素と経済を両立させる成長モデルで実現~

2023年12月01日 大島裕司


「脱炭素先行地域づくり」による地域での脱炭素の流れ
 2020年10月に発表された「2050年カーボンニュートラル宣言」によって、日本にも本格的な脱炭素の時代が到来した。地域での取り組みも脱炭素社会の実現に必要不可欠であるとされ、その中心的な施策として、1地域当たり最大
50 億円の交付金が投入される「脱炭素先行地域づくり」が始まっている。
 選定された「脱炭素先行地域」は、既に74を数える。当該自治体では、設定したエリア内の民生部門における電力由来の温室効果ガス(以下「GHG」)を2030年度までに実質ゼロとするなどの要件の実現に向けた取り組みが進む。脱炭素地域づくりは、事実上の国際公約となっている「2050年カーボンニュートラル」の達成を目指す国の後押しを受けながら推進されていくこととなる。

注目される「環境価値」
 再エネの利用はGHG削減の代表的な手法であるが、風力やバイオマスといった再エネ資源は地域偏在性が強い。例えば、都市部はGHGを多量に排出するにもかかわらず、再エネのポテンシャルは低い場合が多い。一方、再エネのポテンシャルが高い自治体では、適地が「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」に基づいて設置された再エネ電源(FIT 電源)で既に埋め尽くされている、あるいはポテンシャルに対し需要が小さすぎることなども多い。こうしたことから、再エネを地域裨益型の脱炭素の取り組みにつなげにくいケースは少なくないのが実態といえる。
 ここで注目されるのが「環境価値」である。例えば、再エネがGHGを排出しないという特性を「環境価値」として「エネルギー価値」と分離して証書化し、それを通常の電力を使用する際に「実質GHGゼロの電気」として扱えるよう活用する仕組みである。東京証券取引所でも、こうした証書の一つである「J-クレジット」を扱うカーボン・クレジット市場を 2023年10月11日に開設し、普及を進めようとしている。

石狩市が進める再エネの「地産地活」のモデル
 脱炭素先行地域に採択されている北海道石狩市は、陸上風力、太陽光、木質バイオマスなど豊富な再エネ資源を生かし、市内に合計120MW程度の電源が整備されている。また、石狩湾新港の港湾区域内には、国内最大級の洋上風力発電(合計出力112MW)も、2023年末から稼働の見込みである。そして将来的には、一般海域でさらに大規模な洋上風力発電事業も計画されている。
 しかし、既存の再エネ電源のほとんどは、前述のFIT電源として民間が整備したものであることから、作られた再エネの「環境価値」は地域内で活用されず、外部に流出してしまっている。そのため、脱炭素先行地域、そして再エネ先進地域である石狩市であっても、地域脱炭素を推進することは容易ではない。
 そこで石狩市では、市内FIT電源の電気由来の「トラッキング付FIT非化石証書」を市場から調達(代理購入)し、その権利を市内企業や誘致を図る企業、周辺自治体などに移転するサービスの構築を目指している。企業や周辺自治体は、このサービスの利用によって、石狩市の環境価値や再エネ電気を脱炭素の直接的なソリューションとして享受することが可能となる。
 石狩市では、このサービスを提供できるようになれば、「既存FIT電源の有効活用」「RE100などを宣言している企業の誘致」「脱炭素起点の新たなビジネスの地域での育成」などの効果が生まれると見込んでいる。

自治体の枠組みを超えた連携への期待
 石狩市では、サービス提供によって連携を深めることで、周辺自治体が独自で持つ、再エネ電気の活用や脱炭素に役立つノウハウやサービスを、石狩市内の企業や進出してくる企業に提供できるようになることも期待する。将来的には、他地域との連携を、再エネ電気の需給における広域のバランシンググループに進展させることも視野に入れている。
 石狩市の取り組みは、「脱炭素」と「経済」のバランスをとりながら、周辺地域と共に成長していくモデルの一つといえるものである。地域内の再エネ電源の環境価値を、地域の脱炭素や企業誘致などに自治体自身が直接関与しながら活用する仕組みは、国内にはまだない。今回の試みが石狩市とその周辺の発展に貢献するだけでなく、各地で展開されるようになることが期待される。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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