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アジア・マンスリー 2024年3月号

債務が急増する中国の小規模・零細企業

2024年02月29日 関辰一


中国では、コロナ禍への対応、およびコロナ禍前から始まっていた金融機関に対する政府の指導により、小規模・零細企業の債務が近年急増している。これは中国経済の新たなリスクである。

■小規模・零細企業向け銀行貸出が急増
近年、中国では小規模・零細企業の債務が急増している。国家金融監督管理総局によると、2023 年 9 月末の小規模・零細企業向け貸出残高は前年同月比+19.3%の 69.2 兆元であった。同月の銀行貸出残高全体では同+10.9%の 234.6 兆元であったことから、銀行は小規模・零細企業向け貸出に非常に積極的と言える。

こうした貸出の急増は、2015 年から 2020 年にかけて急増した不動産向け貸出を彷彿とさせる。不動産ディベロッパー向け貸出と住宅ローンを合わせた不動産向け貸出残高の対 GDP 比は、2015 年末の 30%から 2020 年末の 49%へと、5 年間で 19 ポイントも上昇した。その後、2020 年秋から中国政府がディベロッパーの資金調達を厳しく抑制したことをきっかけに、この貸出残高の対 GDP 比は低下し、ディベロッパーは相次ぎ債務不履行に陥った。2023年 9 月末の小規模・零細企業向け貸出残高の対GDP 比は 55%と、やはり 5 年間で 19 ポイント上昇している。これは、小規模・零細企業の債務不履行リスクが高まっていることを示唆する。

なお、中国では、業種ごとに売上高や従業員数、総資産の指標を設けて、企業を規模別に大企業、中規模企業、小規模企業、零細企業に分類しており、製造業における小規模・零細企業とは、従業員数 300 人未満、売上高 2,000 万元未満の企業、小売業における小規模・零細企業は、従業員数 50 人未満、売上高 500 万元未満の企業、不動産業においては、売上高 1,000 万元未満、総資産 5,000 万元未満の企業と定義されている。

■コロナ禍への危機対応と「両増両控」
小規模・零細企業向け貸出が急増している背景として、以下の 2 点が挙げられる。第 1 は、コロナ禍への対応である。政府は、2020 年 1 月後半にコロナ感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ政策」に踏み切り、2022 年 12 月まで厳しい行動制限を断続的に行った一方で、ゼロコロナ政策による経済へのマイナス影響を緩和するために、金融と財政の両面で対応策を打ち出した。金融面では、金融市場への資金供給や再貸出等を通じた企業への金融支援、財政面では、増値税の減税や社会保障料の企業負担分の減免等の措置が実施された。

とりわけ、政府が 2020 年 2 月の国務院常務会議で、中規模企業と小規模・零細企業向けの貸出の元利払いを猶予し、不良債権に計上しなくともよいと決定したことや、同年 5 月の全人代で大型商業銀行の小規模・零細企業向け貸出(金融包摂貸出)の伸び率を前年比+40%以上とするよう要請したことで、小規模・零細企業向けの貸出が大幅に拡大した。これらの結果、2020 年から2022 年にかけて小規模・零細企業向け貸出残高は前年比+10%台後半の高い伸びを維持した。

第 2 は、コロナ禍前から始まっていた政府による金融機関に対する貸出指導である。政府は、2015 年 3 月の全人代で、金融包摂の発展を強化、すべての市場主体が金融サービスの恩恵を受けられるようにする方針を打ち出した。それにのっとり、与信額が一定額以下の小規模・零細企業向け貸出、農業向け貸出、教育ローンといった金融包摂に関する統計を新たに作成し、2018 年までは 1 社当たり与信額 500 万元未満、2019 年以降は与信額 1,000 万元未満の小規模・零細企業及び個人事業主向け貸出を「小規模・零細企業向け金融包摂貸出」と定義し、その増加を促した。2017 年 3 月の全人代では、中小零細企業の資金調達が難しく資金調達コストが高いという問題に対処するため、大型商業銀行及び中型商業銀行に対して金融包摂貸出を専門に担う部門を設立するよう要請した。

2018 年 3 月には、政府は金融機関に「両増両控」を要請した。「両増」とは、与信額が 1,000万元以下の小規模・零細企業向け貸出の増加ペースが貸出全体を上回ること、そして、その貸出の口座数を前年から増やすこと、「両控」とはその貸出金利を低く抑えること、そして、不良債権比率を低く抑えることを意味する。

こうした政府の指導により、小規模・零細企業向け金融包摂貸出残高は 2019 年以降、前年比+20%を上回るペースで増えており、2023年 9 月末は 28.4 兆元(GDP の 23%)となった。

こうした政策を受け、先進国では一般に信用力を反映して中小企業向け貸出金利は大企業向けを上回るものの、2019 年以降の中国では中規模・小規模・零細企業向け貸出の平均金利が大企業向けを下回る水準に低下している。

■中国経済の新たなリスクとなる小規模・零細企業の債務問題
小規模・零細企業の資金調達難が解消に向かっていることは、中国経済にとって前向きな動きであるものの、収益性が低い企業が市場から退出するという健全な新陳代謝が阻まれること、および小規模・零細企業向けの不適切な貸出の増加により潜在的な不良債権が増加することが懸念される。

国際通貨基金(IMF)も、中国の小規模・零細企業の債務急増に警鐘を鳴らしはじめた。2024年 2 月に公表した対中 4 条協議報告書では、不動産市場の低迷とコロナ禍による非製造業企業の収益悪化により金融機関の資産の質が低下していることに加え、小規模・零細企業向け金融包摂貸出の急増も金融機関の資産の質に対する懸念を高める材料になっている、と指摘した。今後、中国経済の新たなリスクとして、小規模・零細企業の債務問題に注目していく必要がある。

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