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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.24,No.92

インドの半導体国産化計画の成否を分ける要因は何か

2024年02月07日 熊谷章太郎


コロナ禍の半導体不足や米中対立の深刻化などを背景とする半導体のサプライチェーンの再編が加速している。業界再編を主導するアメリカは、価値観を共有する西側諸国と連携して生産基盤の囲い込みを進めているが、供給元の一段の多様化に向けて世界経済・政治で着実にプレゼンスを高めるインドにも生産拠点を分散しようとしている。インドはこうした追い風に乗って国内の半導体産業を育成しようとしているが、その成否は以下の3点を中心にビジネス環境の整備が進むかどうかに掛かっている。

第1に、「質の高い」電力インフラの整備である。経済成長に伴い電力需要が増加する一方、天候要因に発電量が左右されやすい再生可能エネルギー導入が拡大する。そのため、電力インフラが比較的整備されている地域でも瞬低(電圧の一時的な低下)や瞬停(短時間の停電)の頻発が半導体生産の障害となる可能性がある。電力供給の安定性を高めるためには送配電インフラの整備を担う配電公社の赤字体質の解消が不可欠であり、電力価格の引き上げという痛みを伴う改革が必要になる。

第2に、持続可能な水資源の確保である。半導体の生産は部品の洗浄や設備の冷却などの過程で大量の水を用いる一方、インドは地下水の汲み上げや異常気象に伴う降雨量の減少により先行き深刻な水不足に陥るリスクを各地で抱えている。農業用水や農業向け電力の優遇価格の見直しを通じて過度な地下水の汲み上げを制限するとともに、灌漑施設、雨水貯水層、廃水のリサイクル設備、海水淡水化施設などの整備に政府予算を重点的に配分することで水資源の持続可能性を高めていくことが必要になる。

第3に、人材の確保・育成である。インドは理工系の人材を豊富に抱えているが、半導体産業で即戦力となれる技術者が限られていることや、トップ校以外の大学生のレベルの低さを踏まえると、他産業に従事する労働者のリスキリング環境の整備や高等教育全体の底上げが必要である。また、州を跨ぐ労働者の雇用や企業の柔軟な雇用調整を制限する労働法制の見直しを通じて雇用の流動性を高めていくことも求められる。

電力・水・人材の課題にもかかわらず海外の半導体関連企業がインド進出を検討している理由としては、東アジアの地政学リスクやインドの手厚い補助金政策の存在を指摘出来る。しかし、インドが半導体産業の発展を持続的なものにするためには、政治的にハードルの高い改革を断行しビジネス環境を改善していくことが不可欠である。

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