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【シリーズ 子ども社会体験科“しくみ~な”の開発】
第3回 Me&My City 体験施設でのカリキュラム

2024年01月25日 木下友子




 Me&My CityをMe&My Cityたらしめている最大の要素は、学外の体験施設でのロールプレイを通じた体験である。ここでいう「学外の体験施設」とは、Me&My Cityの運営主体であるNYTが全国で13カ所(2024年1月時点)設置している施設で、子どもたちは学校での学び(詳細は前回を参照)のあと、1日をここで過ごし学びを深める。
 今回は、この学外施設とそこで行われる体験の秘密を、現地視察と関係者の話を基にひも解いてみたい。

体験施設で過ごす1日の全容
 9月下旬、我々はMe&My Cityの運営主体NYTから指定されたEspooの施設に向かった。最寄り駅はヘルシンキ駅から電車で15分ほどの場所だが、緑豊かで人通りもほとんどない場所だった。広い駐車場を有する民間のオフィスビルの一部を賃貸する形で体験施設が設置されており、子どもたちはバスでこの体験施設を訪問するとのことである。



 ここで、子どもたちが過ごす1日の流れはこうだ。子どもたちは朝集合すると、全員揃ってインストラクターから1日の流れや注意点などの説明を受けた後、各自が所属する企業/機関のブースに移り、ブースごとのミーティングや就業のための準備などを行う。その後、タブレットを通じて提供される、一人ひとりに異なる内容の指示書に沿って、自身のタスクに取り組む。全参加者は「就業中」か「休憩中」のどちらかの状態であり、前者の時間には自身の所属する組織で仕事をする。後者の時間には昼食を食べたり、一市民として必要な活動(銀行で口座開設をする、市役所で投票をする、等)をしたりするほか、買い物をするなどの余暇を楽しむ。このサイクルを何度か繰り返したあと、最後にブース内の清掃、チームや全体での振り返りを行って15時ごろ帰路につく。現地でヒアリングした小学校教員によれば、体験施設での活動は非常に充実しており、ほとんどの子どもたちが大いに楽しんで取り組むため、「1日では足りない!また来たい!」という感想が多く聞かれるとのことだった。

施設のつくり
 体験施設は、施設によって広さや構造が異なる。我々が訪問したEspooの施設の場合、800㎡ほどと思われる空間の中に、20弱のパートナー組織のブース、広場や休憩スペースなどの共有施設が設置されていた。ブースが施設の外側の壁に沿うように並んでおり、中心部に広場や休憩スペースがある。また、環境教育の目的で、ごみを入れるとメッセージが流れる遊び心にあふれたごみ箱が設置されている。さながら一つの町のようであり、フィンランドらしいカラフルな色使いや壁のイラストの効果もあり、そこにいるだけで楽しい気分になるような施設がデザインされている。
 ブースは縦2m、横3mほどの広さであり、四方を壁で囲った簡易的な建物のような外観である(うち一面には窓と入口が設置されている)。パートナー企業である実在企業のロゴが看板として掲示されているほか、一部では太陽光パネルの装飾もあるなど、循環経済教育に力を入れるフィンランドらしい工夫もある。ブースの左右の壁面には企業から提供された壁紙やポスターが貼られていたり、そのブースでのタスクをこなすために必要な什器や物品が設置されてたりする。例えば小売店であれば、実際に店舗で使用されている商品陳列棚や本物の商品が置かれ、決済を行うためのツールや従業員が着用するユニフォームなどが準備されている。子どもたちは自分の勤務するブースで、こうした設備を活用しながら他メンバーと協力して自分のタスクに取り組むのである。



 このように、各ブースで子ども達が取り組むタスクにはリアリティを追求する設計がなされているが、Espooの体験施設に限らずMe&My Cityの体験施設全体に共通して言えることは、施設自体は非常に簡素なつくりであるという点だ。このカリキュラムが開発された当初に施設のデザインに携わっていた方に聞いたところ、「施設は1~2日で設置できるくらいのもの」とのことであった。我々の目から見ると、ハードの作り込みよりも、ソフトの作り込みに多大な労力をかけているようだ。

子どもたちが取り組むタスクを支える”マニュスクリプト”
 では「ソフト」とは何か、といえば、「マニュスクリプト」と呼ばれる、子どもたちが取り組むタスクの筋書きがそれに該当する。さまざまな関係者から話を聞いた結果、日本総研はこのマニュスクリプトがMe&My Cityの肝であると捉えている。
 前述の通り、参加者はタブレットを通じて提供される指示書に従って、一人ひとりが異なるタスクに取り組む。指示書には15分単位でその参加者が行うべき事柄が記載してあり、参加者は時には自身で判断をしながら、周囲と協力してそのタスクを行う。この個別の指示書の集合体が、マニュスクリプトである。残念ながら、現地視察時にマニュスクリプトを見せていただくことはできなかったが、さまざまな関係者から聞いた話を基に推測すると、マニュスクリプトは、①ブース内の他メンバーとの(すなわち組織内での)関わり、およびブース外との関わりの両方を持つように設計されており、②ブース内外の関わりを経て全体としてストーリーを描くように設計されている。例えば、小売業のブースであれば店長、企画担当者、調達担当者という3つの職種が設定されており、企画担当者は、企画した内容を店長にプレゼン→店長から承認を得て調達担当に調達を依頼→企画開催時に消費者(他ブースの休憩中のメンバー)にアンケートに回答してもらう、といったイメージである。マニュスクリプトは基本的にはNYTが作成しているが、よりリアルなものとするため、パートナー企業に開発の協力を依頼するケースもあるという。
 こうした複雑かつ緻密に、個別に設計されたタスクをこなしながら、子どもたちはすべての仕事に意味と価値があること、他者と協力することの大切さなどを学んでいくのである。

 次稿では、こうした活動を支える大切なプレーヤーであるパートナー企業/組織について、その役割と企業/組織にとっての意義を紹介する。
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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