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自動運転の時代に向けた道路空間の再構築の方向性

2024年01月30日 逸見拓弘


 国内では、衝突被害軽減ブレーキやレーンキープ機能などの安全運転支援機能を搭載する自動車の普及が進んでいる。2020年1月に道路運送車両法が改正され、国内で販売する新車への衝突被害軽減ブレーキ搭載が義務付けされるなど、制度面での普及の後押しも進む(海外車は今後、義務化の予定)。令和3年度交通安全白書(内閣府)によると、令和元年時点ですでに国内生産台数の93.7%に衝突被害軽減ブレーキが搭載されているとのデータもある。将来的には、安全運転支援機能が搭載された自動車だけが公道を走行する自動運転の時代が訪れるだろう。しかし、自動運転の時代に向けて道路空間はどのように再構築を進めていけば良いのだろうか。私は、道路空間の再構築の方向性は、車道空間の容積縮小によって新たに創出できる余剰区間を多用途活用する方向性が望ましいと考える。

 車道空間の容積縮小が可能と考える理由は、自動運転が一般的となる時代では車道幅員と車線数を縮小できるようになるからである。人間がドライバーであることを前提に、ハンドル操舵にブレが生じた際に側方を走行する車両等との接触を防ぐため、現在の車線幅員は比較的大きく設定されている。しかし、自動運転の時代になると自動運転車には横方向の操舵制御機能が働き操舵のブレなく車線の真ん中を走行できるようになるため、各車線幅員を縮小しても側方車両との接触はしなくなると考えられる。また、現在の車線数は、交通容量(ある地点を一定時間あたりに通過する乗用車台数)を考慮して渋滞を生じないよう設定されている。しかし、自動運転の時代になると車車間通信や加減速制御機能により前後の車間距離が短縮されて1車線当たりの交通容量を増加させることができ、特に3車線以上の幹線で1車線を縮小しても渋滞は生じにくくなると考えられる。

 次に、上記のような車道空間の容積縮小によって新たに創出できる余剰空間の活用方法の方向性について考えてみたい。一例として、路肩の1車線を旅客/貨物の運送事業者が専用/優先ゾーンして使用する構想がありうる。路肩の1車線を、自動運転トラックや自動配送ロボットに荷物を積み下ろす場所、自動運転車に乗客が乗降する場所として、一般交通レーンと分離した事業用車両専用の道路空間とすることで、一般交通レーンには駐停車車両が存在しなくなり渋滞のないスムーズな交通流が実現する。また、他の例としては、小型モビリティの専用レーンの新設をする構想もありうる。小型配送ロボットや電動キックボード、自転車等が走行する道路空間を歩道空間や車道空間と分離することで、歩行者にも自動車も往来がしやすいまちづくりが実現する。

 自動運転の時代に向けて道路空間の再構築を進めるには、時間とコストを要する。このため、国や自治体では早い段階から中長期的な計画を立案することが必要になる。しかし、現状では、再構築に向けた具体的な計画の立案に着手している地域は少ない。今後、国・地方自治体では、自動運転の時代に向けて管理する道路空間をどのように再構築していくかの議論を早急に開始することが求められる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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