コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

【サステナブル・ブルーエコノミー】真珠からサステナビリティを考える

2024年01月16日 村上芽


 真珠は、アコヤガイなどの真珠貝が生み出す海の幸の1つであり、海による「供給サービス」という生態系サービスの産物である。そのバリューチェーンは、真珠貝の養殖、真珠の卸・ジュエリーへの加工や、それを販売する小売などに広がる。最近では、真珠は鉱物資源由来の宝石類に比べ、より循環型で環境に配慮した宝飾品として評価され、同時にユニセックスな自己表現の手段としても選ばれ始めている。

 そこで本稿では、真珠がバリューチェーンを通じてサステナブルであるためには、どのような条件があるか、いくつかの観点を紹介したい。

 まず、真珠養殖を持続可能な方法で実施するには、例えば、養殖の工程で廃棄物を減らす(貝殻の再利用など)、CO2排出を減らす、化石由来のプラスチック製品の使用を減らすなどの取り組みがある。養殖場付近の山での植樹活動や、漁具のアップサイクルといった取り組みもある(※1)。これらの取り組みの背景には、かつて、真珠養殖自体が密殖などによって海に大きな負荷を与えたこと、赤潮や赤変病の影響を受けてきたこと(※2)といった特有の事情がある。

 ここからやや注意が必要なのが、消費者がさまざまな場面で見かける「環境ラベル」と、真珠の世界が必ずしも相性が良くない点だ。持続可能な方法で養殖された真珠だけでできたジュエリーとしてラベルが貼ってあれば、商品を選ぶ際の助けとしては有効になるだろう。

 しかし真珠の加工現場では、真珠の産地以上に、一粒一粒の色味や輝きをもとに組み合わせを考えるという実務が存在しており、その組み合わせという職人技の効果を考えると、一概に「○○産真珠、認証付き100%」と表示されたジュエリーが自動的に「よい」と言えるのか、判断が難しくなる。また、色や形、巻きなどの観点でも選別される一方で、自然にできた色味や形そのものを活かした加工は、真珠養殖が始まるよりもずっと古くから行われており、現在でも「バロックパール」などの名称で受け継がれている。

 消費者が産地のことを考えるべきかといえばもちろん「YES」であり、海の環境保全にかかるコストは当然、真珠のジュエリーの価格に織り込まれているべきであろう。ただ消費者も、「自分は、環境に配慮した産地のものを選んでいる」という満足で止まっていては意味がなく、結局、どこの産地でも持続可能な養殖方法が普及していることや、資源を活かしきる発想やそれを実現する技術が重要であるという点に目を向けさせてくれる(※3)

 さらに、養殖はもちろん、自然光や人の目を使った真珠の選別・加工という伝統的な技術の場でも、人手不足が課題になっており、どこまで/何を機械に任せられるのか、働きがいのある人間らしい仕事づくりにも関心が広がっていく。仕事づくりという点では、養殖技術の開発そのものが、日本の産業史とも重なる。

 サステナブルな世界を構築するには、地球環境(Planet)と人間(People)の両方の豊かさが不可欠だが、真珠のジュエリーは海の豊かさや生物の不思議さ、人間の仕事の豊かさや面白さ、そして手にする人の多様性を考える格好の素材であるともいえる。品質の良いジュエリーは、代々受け継がれる可能性の高いものだが、子を持たない人の増加も考慮すると、社会全体で受け継いでいく、循環型の小売業の必要性が高まるのかもしれない。

 なお、真珠の母貝のアコヤガイは、日本全国的に大量へい死に直面しており、原因は特定されていないものの気候変動による海水温の変化の影響は受けているとされる。真珠からサステナビリティを考えても、避けて通れない問題が気候変動であり、その対策強化なくしてあらゆる営みの持続可能性が脅かされると言ってよいだろう。

(※1) 日本真珠輸出組合ウェブサイト株式会社ミキモトウェブサイト、を参照
(※2) 山田篤美[2013]『真珠の世界史』中公新書
(※3) オイシックス・ラ・大地株式会社ウェブサイトにも参考になる情報がある。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ