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サステナビリティ経営を担う人材育成を強化する

2023年12月12日 渡辺珠子


 気候変動、人権、DE&I(Diversity, Equity and Inclusion)など、企業が直面するサステナビリティ重要課題やそれらへの対策を社内で理解させ、普及させることが急務となっている。とりわけ、SCOPE3のように自社だけでなく関連パートナー企業を含めたサプライチェーン全体でのサステナビリティへの対応が必要とされていることは見逃せない。さらに、足元の課題に焦点を当てるだけでは十分とは言えない。AIやゲノム編集といった技術の進歩や人々の価値観の変化などが、これまでのサステナビリティ課題への解釈に大きな影響を与えていることから、企業はこれからの環境・社会変化を見据えて適時・的確に対応を進化させる必要がある。この進化にはビジネスモデルの変革も含まれる可能性があり、全社でサステナビリティを理解し、推進する企業文化の確立が必要なのだ。

 2020年、日本総合研究所では20年以上にわたる企業のESG側面の調査・分析活動の実績を生かし、内発的にサステナビリティを推進する人材育成に寄与する研修プログラム「SAKI (Sustainability Action and Knowledge Immersion)for X」を開発し、これまで様々な業種の企業に提供してきた。SAKIは中長期目線で、自然資本を含む幅広いステークホルダーに対して価値を創出していくことが、自らの企業価値向上に繋がることを体感するワークを中心に構成されている。SAKIを実施して得られる効果の一つは、自分の業務とサステナビリティ課題との関係性を理解できるようになること、従来の収益追求だけを目指すときの時間軸ではなく、中長期目線で事業を俯瞰できるようになることだ。具体的には、自社の製品やサービスの売り上げ拡大が社会や環境に与えるポジティブな効果を増幅させたり、ネガティブな効果を削減することに繋がることを第三者に十分説明できるよう、業務とサステナビリティとの関係を様々な観点から言語化・可視化するワークを行なっている。これは将来の社会や環境の変化を踏まえて、自社がこれから生み出すべき価値を議論する土台にもなる。

 SAKIはサステナビリティの観点から中長期的に事業変革を考え、実践する人材の育成に焦点を当てたプログラムだが、一方で実務で、具体的ツールやフレームを必要とする企業も多い。実際のところ研修の効果を持続させるためにも、実務で活用できるツールと組み合わせて研修を実施することは重要である。この際、組み合わせツールとして現在注目しているのが「社会にとっての良い営利企業」を認証するB Corp認証だ。B Corp認証を取得するための自己評価リストであるBIA(B Impact Assessment)は、環境、従業員、地域社会、顧客に対する企業の取り組みに関する約200の設問から構成されている。それぞれが足元のサステナビリティ課題と関連した設問内容になっており、多くが設問に対して取り組み度合いをチェックする形式であることから取り入れやすい企業は多いだろう。SAKIが行うワークでは自社の事業活動が社会や環境に与えるポジティブ・ネガティブ両方の効果を自分で考えるが、BIAでは質問に回答していくことで自社がすでにできていること、できていないことをある程度明らかにできる。ただ、質問の中には業種や事業環境によって解釈の幅を持たせたものもあるため、回答するためには自社を取り巻くサステナビリティの状況を事前に理解しておくことも必要になる。また各質問に回答するためには関係部署やパートナー企業に関する比較的詳細な情報取得も必要になるため、企業内でサステナビリティ推進の必要性を理解・浸透しておくことも前提となる。

 海外ではBIAやその認証プロセスを題材にサステナビリティを実践する人材育成を目的としたプログラムを展開する大学が複数ある。これらの大学はB AcademicsというグローバルNPOを形成し、授業で活用した教材や、各地域のB Corp認証企業についての学術研究レポートを共有している。そこで日本総合研究所ではB Academicsと勉強会を実施し、彼らの教材も一部活用しつつ、日本向けのプログラムの開発を推進することとした。今年度は早稲田大学ビジネススクール(WBS)と共同で、「B Corpを活用したSX人材育成」という講座を24年2月に開設し、プロトタイプとなるプログラムを実施する。BIAを活用したプログラムは日本初である。想定している受講生はWBSに通う社会人学生と日本総合研究所の社員だ。彼らの反応を踏まえ、SAKIで提供してきたコンテンツとの組み合わせを再考する予定である。次年度以降、サステナビリティの理解浸透とその実践の両方を強化したプログラムの完成を目指すので、ぜひ期待頂きたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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