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選挙権同様、被選挙権年齢を満 18 歳以上とすべき理由

2023年11月01日 井上岳一


欧米の主流は既に変わっている
 公職選挙法の改正によって、2016 年 7 月以後、選挙権年齢は 18 歳以上に引き下げられました。しかし、被選挙権年齢は据え置かれ、衆議院と地方議会議員・市区町村長は 25 歳以上、参議院と都道府県知事は 30 歳以上のままとなっています。
 被選挙権年齢が選挙権年齢よりも高く、また、参議院議員や都道府県知事が30 歳以上とされていることについては 「政治家として職務を全うするには人生経験が必要だから」という以外に明確な理由は示されてきませんでした。
 調べてみたところ、わが国では明治時代に普通選挙制度を創設する際、当時の欧米主要国では選挙権年齢 21~25 歳以上、被選挙権年齢 25~30 歳以上が主流だったことにならい、選挙権を満 25 歳以上、被選挙権を満 30 歳としたことが分かりました。すなわち、選挙権・被選挙権年齢は、明確な事情や理由に基づいて検討した結果ではなく、欧米の主流に合わせたものに過ぎなかったということです。
 現在では、OECD 加盟国 38 カ国の半数以上が、「選挙権・被選挙権共に満 18 歳以上」で統一され、欧米の主流となっています。「主流にならう」ならば、日本も被選挙権を満18 歳以上に引き下げるべきなのです。
 実は 2016 年の参院選では、その前年の公職選挙法改正を受けて、被選挙権年齢の引き下げを目指すことを主要各政党がそれぞれ公約に掲げました。
 しかし、その後、本格的な検討はなされないまま今に至っています。公約違反と言わざるを得ない状況ですが、メディアも特にそのことを追及してきませんでした。

若者の「政治離れ」の本当の理由
 日本総研と一般社団法人 NO YOUTH NO JAPAN(代表:能條桃子、以下「NYNJ」)では、昨年 7 月に立ち上げた共同プロジェクト「YOUTH THINKTANK」(以下「YTT」) の活動として、若者の政治参加を高めるために必要な施策などについて検討、発信してきました。この一環として行った 30 歳未満(U30 世代)の若者へのアンケート結果から明らかになったのは、国の政策が若者の声を聞くことなく決められており、自分たちの声を代弁してくれる政治家もおらず、政治には期待できないと感じている若者が少なからずいるという事実でした。ここから示唆されるのは、若者の「政治離れ」は、若者の政治意識の低さに原因があるのでなく、若者が期待できるような政治になっていないことが要因ではないかということです。政府には期待できず、頼りになる政治家もいない。投票しても何も状況は変わらない。そう思っているからこそ、若者は投票しないということです。
 この現実を変えるには、同世代の政治家や候補者が増え、自分たちの声が政府に届き、自分たちが直面している現実が変わる。そういう期待が持てるようになることが重要です。そのために、被選挙権年齢を引き下げる必要がある。それがYTTとして主張したことです。

大人の側が若者への信頼を示すことが必要
 「政治家には人生経験が必要だから」というのは、被選挙権年齢を選挙権年齢よりも高くする理由にはなりません。そもそも、政治家としてふさわしいかどうかを決めるのは選挙であり、年齢ではないからです。既に欧米の主流が選挙権と被選挙権を満 18 歳以上で統一することになっている現在、
 日本が被選挙権年齢を満 18 歳以上に引き下げることに反対する合理的な理由はないのです。
 被選挙権年齢を引き下げたからといって、すぐに若者の投票率は上がらないかもしれません。というのも選挙に出るためには高額な供託金が必要(選挙区においては 300 万円、比例区においては 600 万円!)なため、「若者の候補者」が立候補しにくいからです。被選挙権の引き下げに合わせて供託金も引き下げることも、重要な検討事項です。
 被選挙権年齢の引き下げは絶対に実現すべきです。なぜなら、それが大人の側からの若者への信頼の表明になるからです。若いから、経験がないからダメだ、ではなく、これからを担う若者の可能性に賭ける。若者の未来を信頼する。若者に信頼して欲しければ、若者を信頼する。そういう態度こそが、今の日本に一番求められているものだと思うのです。

(※)『被選挙権年齢に関する調査』 (2023年9月28日/日本総研ホームページ)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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