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チップレット技術がもたらす「修理する権利」への好影響

2023年11月28日 大原慶久


 先日、初開催となったJAPAN MOBILITY SHOWを訪れる機会を得た。従来あったイベントとしての東京モーターショーと比べ違いも大きかった。以前の車両や車両搭載技術を中核にした展示内容から、自動車のみならずロボットやドローンなどを含むモビリティ関連の先端技術を強く打ち出した展示内容に進化した印象であった。会場では燃料電池を搭載した鉄道車両まで展示されており、電動化時代を深く印象付けていた。電動化時代に突入するにあたり、自動車やロボット、ドローンといったモビリティの分野では、従来よりも多くの半導体が必要になることに疑いの余地はない。IoTやAIのトレンドが強くなったことで、モビリティ以外の分野でも半導体が必要となっており、世界的に半導体需要が強まっている。国内では世界最大手の半導体受託生産企業の熊本への工場新設をきっかけに、半導体関連産業の再興に関心が集まっており、同時に国内半導体産業には技術革新と国際競争力確保をどう実現していけるかが議論の的になっている。(注1)
 その脈絡で「修理する権利」という概念の重要性も浮上している。製品のユーザが製造元や特定の修理業者に頼らず自身で製品を修理できる権利を「修理する権利」という。この権利を確保するためには、製品の修理可能性をどのように高められるかが焦点となる。修理可能性を高めるべく製造元側が、スペアパーツをユーザが入手できるような仕組みづくりを進め、修理に必要な情報を提供する事例は増えつつあるが、設計段階で修理可能性を前提としている製品はまだ少ないのが現状である。特に半導体部品は、故障事象及び故障箇所の特定が難しく、また半導体上の電子回路の故障部分のみを的確に修理交換することが難しいため、修理可能性を高めるには大きな課題が残っている。
 上記の課題解決に向け注目しているのはチップレット技術だ。チップレット技術とは、1枚の半導体チップに集約した電子回路(モノシリックチップ)を、より小さな複数のチップに分割し電子回路を構築する技術である。本技術によって、電子回路の構成の自由度が増し、別の会社が設計・製造したチップレットを集めたり、世代の異なるチップレットを組み合わせたりすることが可能になる。チップレット技術を社会実装するため、ダイ面積や互換電源、物理インタフェースのような機械的寸法の標準化、チップレット間の通信方式の標準化の検討が進む。チップレット間の通信方式については、Intel社が主導してUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)コンソーシアムを立上げ、既存のPCIe規格やCXL規格を参考にUCIe 1.0規格を既に発表している。チップレットのオープンなエコシステムの構築を目指す活動であり、「修理する権利」の実現に向けても好影響であろう。ただ、「修理する権利」が今後もひろく実現していくためには、こうした活動を推進しつつ、修理可能性を製品設計の与件として織り込んでいく変化を促していくことが、不可欠である。そうした動きが半導体関連産業のなかから生まれてくることを強く期待しつつ、「修理する権利」の恩恵を受けるユーザ側と製造者側が連携し半導体関連技術への関心を高め理解を深めることが国内の半導体関連産業の一層の強化につながるであろう。半導体関連産業以外においても技術革新の中で修理可能性が高まることを期待しつつ、そのような動きを進めていく必要がある。

(注1) 半導体・デジタル産業戦略検討会議. 経済産業省 (参照2023-11-17).


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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