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農業の気候変動適応における “攻め”と“守り”

2023年11月14日 三輪泰史


 今夏、日本の平均気温は平年と比べて約1.8度も高く、気象庁が統計を取り始めて以降の125年間で最高となった。記録的な猛暑は、国内の農業にも大きな影響を及ぼしている。コメを例にとると、猛暑に伴う高温障害で白濁してしまった粒(白未熟粒)が多く発生し、等級(※1)が低下してしまった。新潟県産コシヒカリの場合、一等米比率は約4%と、過去最低水準となり、販売単価の低下などが懸念されている。また作況指数(※2 。10月25日発表分)は、新潟が95、北陸全体で97と「やや不良」のランクとなった。
 今回限りの異常事態とは言い難い。政府の公開資料では、わが国の年平均気温は今後も上昇が見込まれると予測されており、近い将来、今年のような猛暑が当たり前になってしまう可能性がある。
 気候変動の悪影響が避けられぬ中、農業分野の気候変動適応策には、“攻め”と“守り”の両面が求められる。まず“守り”に焦点を当てよう。これは、猛暑においても栽培可能な品種の開発や栽培手法の改良を行うものである。既に高温に強い新たな品種の開発・普及が進められている。今年度は従来品種である新潟産コシヒカリが猛暑の影響を強く受けた一方で、近年普及が進んでいる高温耐性品種(例:新潟県の“新之助”や富山県の“富富富(ふふふ)”など)においては、影響が軽微にとどまるという。猛暑への効果が現場で立証されたことで、来年度は高温耐性品種の作付面積を増やしたいという声が各地で聞かれる。
 これらの高温耐性品種への円滑な移行には、消費者の理解・協力が欠かせない。わが国では、各地で開発された美味しいブランド米が人気の定番商品となっているが、それが新品種への移行を阻害してしまっている面も否めない。普及を進めるためには、消費者が温暖化に強い新品種を買い支えることが必要となる。消費者が気候変動・温暖化への備えの重要性を理解し、新品種を購入することが農業者に対する心強い支援となる。
 もう一つ重要な柱となるのが、気候変動への“攻め”の観点である。暑さに負けない品種を作ろう、という専守ではジリ貧は避けられないため、温暖化をビジネスチャンスにつなげる、したたかな考えが欠かせない。温暖化で栽培適地が増える作物では、新たな産地を形成することが可能である。実際に、かつては北海道のコメは評価が低かったが、いまや、「ゆめぴりか」「ななつぼし」「ふっくりんこ」といったブランド米の大産地になっている。また、品種改良においても、気温の高さを活かした今よりも美味しいコメを生み出すことが期待される。加えて、気温上昇を追い風に、再生二期作(※3)で生産量を増やす研究も進められている。単位面積当たりの生産量を大きく伸ばすことで儲かる農業を実現するとともに、国産農産物の増産による食料安全保障への貢献も期待されている。
 食料・農業・農村基本法の見直しが進むなど、日本の農業は大きな転換期にある。気候変動の影響を最小限に抑え込むとともに、新たなチャンスをつかみに行く、という耕種織り交ぜた戦略が、今後の国内農業の発展の鍵となると考える。

(※1)等級:整った粒の割合等で一等、二等、三等に分けられる
(※2)作況指数:平年収量に対する今年の予想収量の比率
(※3)稲刈りの後に、残った株から伸びた稲を再び刈り取る手法(一つの稲で2回収穫可能)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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