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アジア・マンスリー 2023年11月号

韓国、住宅価格の再下落が懸念材料

2023年10月26日 立石宗一郎


韓国では、不動産規制の緩和によって住宅価格が下げ止まっているものの、国内外の要因から再び下落する可能性が高い。住宅価格の下落は、逆資産効果などを通じて景気を下押しする恐れがある。

■韓国政府は不動産市場へのてこ入れを開始
韓国では、コロナ流行後の金融緩和による余剰資金が不動産バブルを助長し、住宅価格が急上昇したが、金融引き締めへの転換を受けて、昨夏をピークに下落に転じた。昨年から資源高によるエネルギー価格の上昇や米国との金利差拡大を受けた韓国ウォン安などにより、消費者物価は急速に上昇し、インフレ率は金融政策の目標値(+2%)を大きく上回った。韓国銀行(中央銀行)は、インフレ抑制と通貨防衛を目的として 2021 年夏場から足元にかけて累計 3%ポイントの利上げを実施した。急速な利上げを受けて、住宅ローン金利は過去2 年間で 1.6%ポイント上昇し、住宅需要を大きく下押しした。

家計資産に占める不動産の割合は 7 割に達しており、資産価値が目減りすれば、家計の消費行動は慎重化する傾向がある。住宅価格が昨夏から 1 割低下したことを踏まえると、これによる逆資産効果(資産価格の下落が消費・投資を減少させる効果)で個人消費は、半年から 1 年程度のラグを伴って▲1.4%程度下押しされると試算される。 2023 年 4~6 月期の個人消費は前年比+1.6%と低調であるだけに、今次局面の逆資産効果はかなり大きく、景気の重しとなっている。

住宅価格の下落を懸念した韓国政府は、価格の急落にブレーキをかけるため、2022 年末から不動産規制の緩和措置を講じている。主な措置として、①住宅購入者に対する融資規制の緩和、②住宅所有者への減税、③住宅供給拡大策の実施、④賃貸事業者への税制支援が挙げられる。こうした住宅市場の需要と供給の両面から手厚い支援を実施した結果、本年 8 月の住宅取引件数は前年同期比+18.1%と 2 カ月連続で 2 桁増となった。また、9 月の住宅価格は前月比+0.1%と小幅ながら上昇し、住宅価格の急落は一服している。

■韓国内外の要因が住宅価格を下押しする恐れ
もっとも、次の三つの要因から住宅価格は再び下落する可能性が高い。

第 1 に、高金利が持続することである。韓国銀行は物価の安定とともに金融の安定も重視しており、為替レートが大幅に変動することを回避するよう動く傾向がある。とくに韓国ウォンは国内金利が米国の金利に比べて低くなると下落圧力が急速に高まることから、今後は金利差が大きく拡大しないように政策運営を行うと見込まれる。米国ではこれまで急速な利上げが実施されてきており、今後も金融引き締め政策が即座に転換される可能性は低く、当面は高い金利水準が続くとみられる。それを受けて、韓国銀行も高めの政策金利水準を維持する見通しである。住宅ローンの利払い負担が家計の重荷となることで、住宅投資は押し下げられる可能性がある。

第2に、賃金の騰勢が落ちている点である。労働者 1 人当たりの平均月給は 2023年 1~7 月に前年比+2.2%と、2022 年(同+4.9%)から減速している。巣ごもり消費の終焉によるパソコンやスマートフォン需要の急減を受けて輸出が低迷するなど、主要産業の不振が賃金を押し下げた。加えて、政府による労働市場改革は、政策意図とは裏腹に、賃金上昇を抑制している可能性がある。前政権下による最低賃金の大幅引き上げなど極端な労働者寄りの政策は、中小企業を中心に企業の経営体力を奪う結果となった。2022 年 5 月に誕生した尹政権は、年功序列賃金から業績に連動した賃金設定への移行を呼び掛けるなど、労働市場改革を進めているものの、企業業績が悪化していることから、賃金上昇率は上がっていない。そのため、家計の住宅購入余力は低下しており、住宅価格の再下落につながる可能性がある。

第 3 に、韓国政府による少子化対策である。韓国の 2022 年合計特殊出生率(1 人の女性が生涯に産む子どもの数)は 0.78 人と、少子化が問題となっている日本(1.26 人)よりも低く、OECD 加盟国のなかで最下位となっている。韓国統計庁が本年 8 月に発表した調査結果によると、19~34 歳のうち 33.7%が結婚をしない理由として結婚資金の不足を挙げている。韓国では、結婚の際に家を購入することが一般的である点も結婚の足かせとなっている。こうした点を踏まえて、韓国政府は 2023 年 8 月に新たな少子化対策として、新婚世帯や出産した世帯に対し、①公営住宅への入居要件の緩和、②住宅ローンの優遇金利の設定など、住宅保有を支援する施策を打ち出した。こうした住宅購入支援策は、住宅需要を喚起し価格を下支えする効果があるものの、一方で、政府は少子化対策の一環として住宅価格の高騰は許容しない構えである。そのため、これまで政府は価格支持政策を採ってきたが、状況次第で価格上昇につながる施策を見直す可能性がある。

住宅価格が再び下落すると、逆資産効果が消費を一段と下押しすると考えられる。韓国の景気は輸出の停滞が足かせとなっているが、先行き、逆資産効果を通じた消費の減少が景気後退を招く可能性に注意が必要である。

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