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中国グリーン金融月報【2023年9月号】

2023年10月23日 王婷


中国グリーン金融月報【2023年9月号】をお届けします。

1.王の視点
炭素ポイントを経済的利益に変える方法

 2021年以後に中国で続々と誕生したカーボンアカウントには、ますます注目が集まっています。2023年現在で、全国で運営されているアカウントは60程度に達したともいわれています。
 カーボンアカウントの持続的運営と普及には、ビジネスモデルの確立が重要であると以前の記事でも紹介しました。つまり、個人や中小企業のグリーン活動により付与された炭素ポイントをいかに現金化、または経済的利益に交換できるかが鍵になるということです。
 いまのところ、各種商品やサービスとの交換、割引などの優遇付与がほとんどで、最近、一部の地方では、地方排出権取引市場でポイントを売却出来るようにする事例も出てきました。今後、カーボンアカウント普及を加速し、参画の企業や個人をさらに増加させるためには、いかに目に見えるインセンティブを与えるのかが重要となります。そのために、様々な検討が進められています。
 一つ、注目したいのは、地方政府が主導している「炭普恵」です。適切な日本語訳が思い浮かばないのですが、「炭普恵」とは、カーボンニュートラルに関連するビジネスインセンティブ、優遇政策、取引制度を総合的に運用することを指します。人々に脱炭素化に向けた取り組みへの参加を促し、CO2の排出抑制とカーボンシンクの増加を目指す運動といってもよいでしょう。現在のところ、北京市、上海市、深圳市、広州市、蘇州市、成都市、浙江省など20以上の地方政府が、「炭普恵プラットフォーム」を立ち上げ、運営をしています。
 深圳市政府が運営している「低炭素プラネット」、北京市政府が運営している「グリーンモビリティ統合サービス "MaaS"」などが代表的なものです。この類のカーボンアカウントの特徴は、きちんとしたCO2算定方法論を有し、グリーン活動によるCO2排出削減量を算定し、地方の排出権取引所での取引も可能にし、取引で儲かったお金をプラットフォームに参画した中小企業や個人に返却するものです。深圳市では、深圳排出権取引所と共同で、「深圳市低炭素公共交通の炭普恵手法(試行)」、「深圳市低炭素電力消費の炭普恵手法(試行)」、北京市では、北京グリーン取引所の支援をもとに、「北京低炭素旅行炭素排出削減方法論(試行版)」が作成されています。深圳市政府が運営している「低炭素プラネット」では、個人カーボンアカウントのポイント対象を、徒歩、バス、地下鉄の利用に限っています。深圳市政府と開発者であるテンセントの意図は、個人の低炭素行動によって生み出される排出削減量を、本当の「炭素資産」に変えて、取引市場で売却できるようにすることにあるといいます。
 「グリーンモビリティ統合サービス "MaaS"」についても、同じくプラットフォームで累積した炭素ポイントをCO2排出量に換算し、北京グリーン取引所で売却する道筋を実現しました。ただし、グリーン消費活動の対象範囲を交通分野のみ限定しているため、仮に炭素資産への転換ができるとしても、売却してえられる金額が些少で、参画する個人に十分に魅力的なインセンティブになっていないという批判もあります。今後、グリーン消費活動の応用シーンをさらに増やし、精緻なCO2削減量算定の方法論を確立することが、商業化実現の克服すべきハードルでしょう。
 もう一つ注目したいのは、アリババが主導する「88炭素口座」です。一つのマスターアカウントにCainiao、Xianyu、Tmallなどのサブアカウントがぶら下がっている構成が特徴となっています。ユーザーはこれらのアプリを利用することで、削減した二酸化炭素量を収集でき、アカウントに炭素ポイントとして登録していくことができるものです。CO2排出量算定について、アリババは、北京グリーン取引所、中国国家標準化研究所、天津排出権取引所などの炭素排出分野の方法論開発機関を招聘し、2022年2月にアリババ・カーボン・ニュートラル専門家委員会を設立して、アリババ発の「スコープ3+」方法論を構築しました。Cainiao、Xianyu、Tmallなどの様々な応用シーンの「スコープ3+」炭素排出削減プロジェクトの評価と方法論を体系化したといえるでしょう。アリババのプラットフォームには、インターネットショッピングプラットフォーム、外食テイクアウトプラットフォーム、中古品取引プラットフォームなどがぶら下がっているため、クーポンやその他の手段を通じて、参画者に多彩なインセンティブを与えることができるようなっています。
 9月には、「上海市炭素排出管理弁法(案)」が公表されました。同弁法によると、炭素排出取引の対象は、上海市炭普恵排出削減量と上海市生態環境部門が認定した他の炭素排出量取引を含むと定められています。上海市の取り組みがうまくいけば、今後、「88炭素口座」で蓄積した炭素ポイントや、ほかに「炭普恵プラットフォーム」で蓄積した炭素ポイントが、排出権取引市場で売却可能になるでしょう。期待も高まります。

2.今月のトピックス
【上海市】「炭素排出管理弁法(案)修正」を公表
 上海市生態環境局は、「上海市炭素排出管理弁法(案)」を策定し、パブリックコメントを募集している。同弁法によると、炭素排出取引の対象は、上海市炭普恵排出削減量と上海市生態環境部門が認定した他の炭素排出量取引が含まれると規定。また、上海市は個人の低炭素行動と企業、コミュニティ、家庭の排出削減行動を定量化することで、排出削減量を取り扱うルートを拡大し、充実させると訴えている。今回の管理弁法の公表は、炭普恵と炭素取引市場の連携において、重要な一歩だとしている。
2023-9-1 上海市政府
https://sthj.sh.gov.cn/cmsres/c7/c7e2a7e9900044569b40d174a824f9d8/0cbdcd879e47f096910760b925f065fd.pdf
コメント:2011年、上海市は地域排出権取引市場のモデル事業を開始しました。8月末には上海市が「上海市炭素排出管理弁法(案)」を公表し、取引対象が排出割当量にもとづくもののみならず、中国国家認証自主排出削減量、上海市生態環境部門が認可したその他の炭素排出削減量を含むことを明確にしました。これは、炭普恵で獲得したポイントが今後取引できるように、下敷きをしたものです。炭素排出権取引商品の革新を促し、炭素市場関連商品の種類をさらに豊かにし、市場の排出削減機能を高めることができるとしています。

3.今月のニュース
【生態環境部】温室効果ガス排出削減自主取引(試行)管理措置を原則採択

生態環境部長は、閣僚会議において、「温室効果ガス排出削減自主取引(試行)管理弁法」を審議し、原則採択した。
2023-9-16 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/ywdt/hjywnews/202309/t20230916_1041035.shtml

【人民銀行】4つの炭素多排出業界のトランジション金融の基準を起草し、条件が整えば公表
人民銀行研究局の発表によると、電力、鉄鋼、建材、農業の4つの産業のトランジション金融の基準を、現在、起草しているという。
2023-9‐20 SOHUニュース
https://business.sohu.com/a/722096158_121217908

【国務院等】中国、海洋生物多様性に関する協定に署名
9月20日 外務次官は、ニューヨークの国連本部で、国連海洋法条約(UNCLOS)の下、国家管轄権の及ばない地域における海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する協定に署名した。
2023-9‐21 中国政府網
https://www.cdmfund.org/33578.hhttps://www.gov.cn/govweb/lianbo/bumen/202309/content_6905369.htm

【国家発展改革委員会】「電力需要側管理弁法(2023年版)」を発表
2025年までに、各地域のデマンドレスポンス能力を最大電力負荷の3~5%に達するように強化すると発表。再エネ貯蔵、仮想発電所、車とグリッドの相互作用、マイクログリッドなどの技術革新と応用も重点となった。
2023-9-27 発展改革委員会
https://m.gmw.cn/2023-09/27/content_1303525938.htm

【中国保険協会】「グリーン保険分類ガイドライン(2023年版)」を公表
グリーン保険商品について、10のサービス分野を整理し、16種類のグリーン保険タイプ、69の細分化された保険商品の種類、150以上の保険商品を体系化した。
2023-9-26 中国保険業協会
https://www.iachina.cn/art/2023/9/26/art_22_107173.html

【北京市】「北京市銀行業保険業におけるグリーン金融メカニズム構築に関する通達」公表
5~10年以内にグリーン金融業務の割合を50%以上に徐々に拡大するとの規定を盛り込んだ。
2023-9‐6 baidu
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1776282750189099155&wfr=spider&for=pc
 
紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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