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JRIレビュー Vol.8,No.111

薬剤給付制度の薬価偏重からの脱却を-給付対象の限定と医師の処方行動への働きかけを-

2023年10月04日 成瀬道紀


公的医療制度における薬剤給付のルールの体系である「薬剤給付制度」は、薬剤費の抑制、必要な薬剤へのアクセス確保による医療の質向上、わが国製薬産業の競争力強化など、薬剤が抱える諸課題に大きな影響を及ぼす。薬剤費の抑制は他の二つと二律背反的な課題であるが、これらを同時追求する制度でなければならない。

薬剤給付制度は、理論的には、給付対象とする薬剤の選定、価格(薬価)の決定、医師の処方行動への働きかけなどによる適正使用推進、の三つの要素から構成される。もっとも、わが国では「薬価制度」と呼ばれるように、もっぱら価格によって薬剤が抱える諸課題への対応が図られてきた。承認された薬剤は原則すべて保険収載され、医師の処方は標準化されず自由放任的であるなど、薬価以外による薬剤費の統制はなおざりにされている。肝心の薬価も薬剤の価値を十分に反映したものではなく、財政的な要請から薬剤の価値とは関連性の薄い様々な引き下げ措置がとられてきた。

このような薬価の決定に依存したわが国の薬剤給付制度は、諸外国に照らせば異例である。それもあり、薬剤が抱える諸課題にうまく対処できていないようにみえる。まず、世界でよく売れている新薬のわが国への上市が遅れるドラッグ・ラグや、上市されないドラッグ・ロスが顕著になっている。次に、医薬品の貿易収支は大幅な輸入超過で赤字拡大傾向にあるうえ、新薬候補物質(パイプライン)の数のシェアも低下するなど、わが国製薬産業の競争力低下が懸念される状況にある。度重なる薬価の引き下げがこうした事態を招いたとの指摘も多いが、わが国の薬剤費の対GDP比は国際的に高いとみられ、むしろ薬剤費の抑制にも失敗している可能性が高い。薬価引き下げにもかかわらず薬剤費が嵩む主因は、国際的に突出した新薬の使用量にあるとみられる。

薬剤費を抑えつつ新薬へのアクセス確保や製薬産業の競争力強化を実現している韓国など海外の事例を踏まえると、以下の3点が求められる。第1に、給付対象とする薬剤の限定である。承認された新薬を原則すべて保険収載する現行制度を改め、費用対効果を考慮し、保険償還の対象を限定する。第2に、医師の処方行動への働きかけによる適正使用推進である。具体的にはまず、費用対効果を踏まえて公的なフォーミュラリー(患者の疾病や症状に応じた推奨薬のリスト)を作成する。次に、公的機関の薬剤師が医療機関の処方の統計情報を分析し、医師へ処方を指導・助言する体制を構築する。さらに、適正な処方を行う医療機関に対し診療報酬の加算など金銭的インセンティブを与える。第3に、薬価決定における費用対効果評価の一層の活用である。新薬に既存薬より高い薬価を付与する際には、原則薬剤の価値に基づき価格を算定する費用対効果評価を用いる。

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