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被選挙権年齢引き下げが必要な理由
〜先進諸国では選挙権も被選挙権も18歳で統一するのが主流に〜

2023年09月28日 井上岳一


 一般社団法人 NO YOUTH NO JAPAN(代表: 能條桃子)と日本総研の共同プロジェクト「YOUTH THINKTANK」(以下「YTT」)は(注1)、今般、被選挙権年齢引き下げに関するレポート(以下「本レポート」)を取りまとめました。

■背景
 わが国の参政権が女性にも拡大されたのは1945年のことです。以来、選挙権は20歳以上、被選挙権は25歳以上とする普通選挙制度が維持されてきました(参議院と知事の被選挙権については30歳以上とされています)。2015年には、70年ぶりに参政権の拡大をする公職選挙法の改正が行われ、2016年7月より選挙権は満18歳以上とされています。しかし、被選挙権については据え置かれたままとなっています。
 近年、海外では、被選挙権年齢の引き下げが相次いで行われており、OECD加盟38カ国では、既に過半数が、選挙権と被選挙権を満18歳以上で統一しています。選挙権と被選挙権に差を設けず、満18歳以上の国民に被選挙権も含めた参政権を付与するのが、OECDでは主流になっているのです。
 YTTでは、若者、とりわけ30歳未満のU30世代の政治参加を高めるために有効と思われる施策の提言を行ってきました(注2)。施策の一つが、被選挙権年齢の引き下げです。この提言を受け、なぜ被選挙権年齢の引き下げが必要なのかを明らかにするために、本レポートを取りまとめました。本レポートを契機として、被選挙権年齢引き下げについての本格的な検討が始まることを期待します。

■本レポートが明らかにしていること
 本レポートでは、以下のことを明らかにしています。
①わが国では明治時代に選挙制度を創設する際、当時の欧米各国で選挙権年齢を21~25歳以上、被選挙権年齢を25~30歳以上とするのが主流だったことから、それにならい、選挙権を満25歳以上、被選挙権を満30歳とした経緯があること。すなわち、選挙権・被選挙権年齢については確固とした根拠があるわけではなく、欧米各国の主流に合わせて決められてきたこと。
②近年のOECD加盟国の動向を見ると、選挙権と被選挙権の年齢を同一にすべく、被選挙権年齢の引き下げに動いていること。既に、OECD加盟国の中では、選挙権年齢と被選挙権年齢を満18歳以上で統一する国が過半を占めていること。すなわち、現在のOECD加盟国では、「選挙権・被選挙権共に満18歳以上」が主流となっていること。
③選挙権に比べ、被選挙権の年齢が高くなっている理由として伝統的に言われてきたのは、「議員として職務を全うするには人生経験が必要だから」というもの。これは英国も同様の意見があった。しかし、年齢が若くても議員の職務を全うするのにふさわしい者がいる可能性を排除できないこと、ふさわしい人物かどうかを決めるプロセスとして選挙があることを理由に、英国では、被選挙権年齢を満18歳以上に引き下げた経緯があること。
④選挙権年齢引き下げがどのような効果をもたらすかを定量的に示すことは難しいが、2006年に被選挙権年齢の引き下げを実施した英国では、18~29歳の若い国会議員が増加し、若者の声を反映した政策が実現するようになったことが報告されていること。

OECD加盟38カ国の被選挙権年齢の分布および過去20年間(2005年→2023年)で被選挙権年齢を引き下げた国の割合

※OECD38ヵ国のデータ(N=38)。うち18ヵ国は一院制。二院制の20ヵ国は下院の被選挙権年齢を表示。
下院(衆議院)の被選挙権年齢を25歳以上としているのは、日本以外ではコロンビア、ギリシャ、イタリア、米国。
2005年から2023年の間に引き下げを実施した国は、フランス、リトアニア、メキシコ、韓国、トルコ、イギリスの6ヵ国。

出所:Inter-Parliamentary Union: Electoral system, Minimum age of eligibility,2023(2023年7月24日取得),
毎日新聞「韓国 被選挙権を引き下げ 25歳→18歳 高3議員も可能に」2022/1/1 を基にYTT作成


■YTTとしての主張
 YTTが被選挙権年齢の引き下げが必要と考えたのは、①現在の政治が若者の声を反映できていない、②政治家・政府が若者の声を聞こうとしない、③共感できたり、自分の意見を代弁してくれると感じられたりする政治家・候補者がいない、と感じている若者が多いという事実がYTTの調査で明らかになったからです(注3)。このような若者の意識が、若者の政治参加が進まない背景にあるのだろうこと、だとすれば、同世代の政治家・候補者が増えれば、この状況に風穴を開けられるのではないかと考えました。
 これまで語られてきたとおり、候補者・政治家になるには、一定の人生経験が必要ということには同意しますが、人生経験は年齢で測られるものではなく、また、それも含めて、ふさわしい人物を選ぶプロセスとして選挙があることを思うと、被選挙権年齢を選挙権年齢よりも高く設定する合理的な理由は見当たりません。むしろ、経験よりも可能性を信じる姿勢を政府・政治家が見せることのほうが、若者に対しては重要なメッセージになるのではないかと考えます。それは、若者を信頼している、というメッセージを政府・政治家が発信することにほかならないからです(逆に言えば、今の被選挙権年齢は、「若者は信頼できない」という間接的メッセージを投げかけていることを意味します)。
 大日本帝国憲法下で普通選挙制度が導入された時、わが国の選挙権・被選挙権年齢は、欧米の主流に合わせて設定されました。特に合理的な根拠があったわけではありません。既にOECD加盟国の過半が満18歳以上で選挙権・被選挙権を統一していることを考えれば、わが国も選挙権に合わせて被選挙権も満18歳以上とすべきだと考えます。

■被選挙権年齢引き下げによって期待される効果
 以下のような効果が期待できます。
●自分と同世代が選挙に出るようになり、若者の関心事が選挙の争点になることで、若者の選挙に対する関心が高まり、若者の投票率が高まる。
●選挙に出る若者が増え、若い政治家が増える。
●以上の結果として、若者の声に対する関心が高まり、若者の声が政治に反映されやすくなると共に、世代間の対話が増え、民主主義が成熟する。

■積み残した課題
 若者が政治家を目指すには、被選挙権年齢の引き下げのみならず、選挙における供託金制度も影響すると考えられますが、供託金制度については、本調査では触れていません。供託金制度のあるべき姿については、今後の検討課題となります。

■注記
 本レポートは、公表資料(政府資料、記事、論文等)をもとにとりまとめたものです。現役議員の反応を見るため、数名の国会議員にインタビューを行っていますが、それ以外の一次情報には当たれていません。とりわけ、OECD各国で、被選挙権年齢を引き下げた背景やその効果については、入手できた公表資料が少なく、より網羅的な調査のためには、現地調査や専門家・研究者との協働などが必要です。そのような限界は認識しつつ、まずは現時点で知り得た情報を分かりやすくとりまとめ、公開・共有することが重要と考え、本レポートを公表することとしました。関係する情報・資料をお持ちの方は、ぜひご連絡ください。

本レポートの全文は、こちらからダウンロード頂けます↓
被選挙権年齢に関する調査 ~諸外国との比較を軸に~

(注1)
YTTの設立趣旨については、下記をご参照ください。
「U30世代の政治意識調査(速報)の公表について
〜U30世代の視点で「ありたい未来」をつくる「YOUTH THINKTANK」が始動〜」(2022年7月1日)


(注2)
被選挙権年齢の引き下げを含む政策提案については、以下をご参照ください。
「U30世代の投票率向上のための施策案について
〜U30世代を5グループに分類、特徴に合わせた投票行動の促進策〜」(2022年12月15日)

「U30世代の政治意識調査」のレポート全文は、以下からダウンロードできます。
「U30世代の政治意識調査」(2022年12月15日)

(注3)
「U30世代の政治意識調査」(2022年12月15日)を参照のこと



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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