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JRIレビュー Vol.7,No.110

デジタルとリアルの融合技術による社会的課題の解決 -XR やメタバース、デジタルツインなどの活用事例から学ぶ-

2023年08月31日 野村敦子


わが国が提唱するSociety 5.0は、デジタル技術を最大限に活用し、多様なバックグラウンドを持つ人々が、それぞれの個性や特徴、ニーズなどを尊重しつつ、快適に暮らし働くことができる社会の構築を目指すものである。Society 5.0の中核テーマともされる仮想空間(デジタル)と現実世界(リアル)の融合に関連する技術は、現実世界における人間の能力や空間・時間といった制約を軽減・解消させるばかりでなく、現実世界と仮想空間の連動により人やモノ、情報などを繋ぎ相互に作用させることで、新たな価値や最適なソリューションをもたらす。そして、経済ばかりでなく社会的な課題の解決にも貢献すると考えられる。

デジタルとリアルの融合技術のなかでも、近年とくに注目されているのが「仮想空間」に関連するものであり、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などのXR(eXtended Reality)と呼ばれる技術をはじめ、メタバースやデジタルツイン、それらを組み合わせた人間拡張などがある。現状、メタバースに関しては2030年には数百兆円規模にまで市場が拡大するとの予測があるなど、産業界の取り組みが活発化している。もっとも、近年急速に進化・普及を進めていることから、法律やルールが未整備であるなど課題も多い。社会的な課題の解決に応用する場合にも、これら技術の課題や限界に配慮する必要がある。

わが国において、実際にXRやメタバース、デジタルツインなどを社会的課題の解決に活用する動きも出てきている。社会・福祉分野では、障害を持つ人向けにVRを活用した自立・就労の支援(LITALICOワークス「JobStudio」)や、多様性社会において他者を理解するためのVRを活用した研修(シルバーウッド「VR Angle Shift」)などの取り組みがある。

教育分野では、DX人材の育成やダイバーシティの推進(東京大学「メタバース工学部」)、通学が困難な不登校児や病児などに学びの選択肢を提供(認定NPO法人カタリバ「room-K」)するために、メタバースを活用する動きがある。

地域活性化への活用に関しては、デジタル田園都市国家構想の後押しもあり各地でXR、メタバース、デジタルツインなどを導入する動きが活発化している。そうしたなかでも、越前市の市と市民団体・大学などが協働して取り組む「デジタルツインえちぜん」とそこから派生した市の「メタバースこころの保健室」は、市民主体の地に足がついた取り組みであり参考になる。

上記の取り組みの関係者からは、デジタル技術を活用する有用性ばかりでなく、社会的な課題に取り組むことから出てくる問題点が指摘された。それらは、A.事業の継続性、B.既存のアナログを前提とした制度の存在、C.社会的課題と技術の橋渡しができる人材の不足、である。今後、社会的な課題解決などに活用し、技術の有用性を発揮させていくにあたり、先行する事例の経験も踏まえ、①目的や解決したい課題の明確化、②協働するパートナーの発掘・確保、③人材の育成・啓発活動の推進、に留意して取り組むことが肝要と考えられる。また、すべての技術の基盤となる④データの整備の重要性が一段と高まることになる。

今後もデジタルとリアルの融合を基盤とした有望技術が続々と登場することが予想されるが、使える技術の選択肢が広がり、ソーシャル・イノベーションが一段と活発化することが期待される。

(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
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