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自動運転移動サービス実装を目指すにあたり重要な3視点

2023年06月27日 逸見拓弘


 2023年5月、福井県永平寺町で国内初となるレベル4自動運転移動サービスの運行が始まった。レベル4とは、車両の発進~停止までの一連の運転操作を自動運転システムが担う国際基準の技術レベルのことを指す。レベル4は運転者の運転操作が完全に不要な点で、いずれも運転者の運転操作を前提とするレベル0~3とは、決定的に異なる。
 政府は、令和4年度デジタル田園都市国家構想総合戦略で「地域限定型の無人自動運転移動サービスを 2025 年度目途に 50 か所程度で実装する」という目標を掲げた。これに呼応して2023年5月に、最大1.8億円×30~40団体の採択を想定した大規模な補助金(地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転実証調査事業))の公募を国土交通省が開始し、政府目標達成に向けた行政支援の拡充を進めている。福井県のサービス運行開始を皮切りに今後2~3年間にかけて全国各地でレベル4自動運転移動サービスに関するニュースを聞くことになるだろう。

 2022年度、日本総合研究所が主催した自動運転研究会では、地方自治体と民間事業者とが共同で自動運転移動サービスの”実装“に関する検討を行った。研究会で深堀検討した、成果獲得に辿り着くにあたり特に重要な視点を3つ紹介したい。
 1つ目は「地域政策としての明確な位置づけ」だ。まず、地域政策に位置付けるには、事前に地域内関係者の合意形成を図ることが不可欠となる。これには、地域協議会やワークショップ等を通じ、地方自治体と地元住民や地元事業者とのあいだで、地域交通の課題や自動運転移動サービスの便益について直接の対話を図る手法などが効果的である。地域内関係者の賛同・支持を得たのち、自治体は自治体計画に自動運転移動サービスの導入に取り組むことを明記することで地域政策への位置づけを行うことになる。自治体が自動運転移動サービス導入に積極的な姿勢を地域内外にアピールすることで、地域内だけでなく地域外、国をも巻き込む取組みに発展させることができる。
 2つ目は「事業構想の吟味」だ。事業構想の立案において気を付けなければならないのは地域交通の多くは行政補助で維持されているという事実だろう。よく「自動運転導入により行政支援に頼らない事業構想を立案できないか」との相談を受けるが、そのような構想は絵にかいた餅になるだけと言わざるを得ない。公共交通は、観光や福祉等の地域の他産業に与える相乗効果が大きい地域の生活基盤であることを念頭に置きつつ、適切な行政支援を頼りにさせてもらいながら、地域全体で支える事業構想を練り込むことが肝要である。
 3つ目は「リスク分析の重視」だ。まず、関係者で合理的に予見できるリスクを洗い出してきちんと認識する必要がある。そのうえで、リスクの種類に応じ、車両開発・運用対応・環境整備・保険対応などの各側面での対応方針を定める。そのうえで、完全に除去できず受容せざるを得ないリスクについては関係者間で責任分担を明確化して合意する。こうしたリスク分析の検討を関係者間で突き詰めることで初めて安全安心なサービス提供が実現する。

 冒頭に述べた通り、2023年度は、国交省が大規模な実証補助金を予算化している。ただ、単年度事業のため夏以降に案件採択されたのちに、検証目的も明確化できないまま、単に年明けに技術実証を実施しただけで終わってしまう事例ばかりになることを危惧している。意味ある実装にするためには「地域政策としての明確な位置づけ」「事業構想の吟味」「リスク分析の重視」をきちんと盛り込み、実証目的を明確化したうえで実証に取り組むことが重要であると改めて訴えたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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