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中国グリーン金融月報【2023年4-5月号】

2023年06月27日 王婷


中国グリーン金融月報【2023年4-5月号】をお届けします。

1.王の視点
脱炭素取り組みを支えるデジタル技術

 5月に北京に出張した際に新しい発見がありました。滴々出行アプリを利用し、タクシーに乗ろうとした際に、炭素排出削減ポイントが明示されたことです。2年ほど前に滴々出行に勤める知人に「滴々も早く個人のカーボンアカウントを作ればいいね」と提案したことがありました。その提案が功を奏したわけではないでしょうが、時間を要しても、こんな形で実現されたことでうれしくなりました。滴々の換算では、1キロにあたり80gの炭素削減ポイントを付与するようです。獲得ポイントは、滴々公益基金会を通じ、渡り鳥の保護に使うか、優待券に交換することができます。
 中国では、個人カーボンアカウントや企業カーボンアカウントの取り組みが盛んになりつつあります。滴々やアリババ、京東のようなプラットフォーム企業に加え、2022年末までに20件弱の商業銀行が個人カーボンアカウントサービスを開設し、運営しています。また、企業カーボンアカウントについては、広東省、深圳市、浙江省などの地域で保有企業数が数十万社以上に上っています。特に、上海、深圳、広州、武漢などの地域では地方政府主導でポイント制が導入され、構築されたプラットフォームを通じて、個人や企業に炭素削減活動への参画を誘導しています。
 こうした取り組みを支えるのは、デジタル技術です。3060目標の実現に向けて、カーボンアカウントは、炭素取引と炭素検証の重要なツールとして、様々な機関がシステム開発を行い、運営されています。運営主体となる事業者は、以下3種類に大別できます。
 1つ目は、金融機関傘下の会社です。フィンテック関連の子会社を設立することは大~中型の金融機関の常識となっています。2020年までに中国の5大国有銀行が自社の傘下でフィンテック関連の子会社を立ち上げました。これらの会社は金融機関の有するネットワークと技術の優位性を発揮し、各業界にデジタルトランスフォーメーションを積極的に働きかけるようになっています。
 2つ目は、プラットフォーム企業です。京東金融、アント金融、テンセントフィンテックなどが代表です。プラットフォーム企業は、技術の優位性と広範なネットワークを生かしながら、自らエコシステムを構築し、上流から下流まで脱炭素取り組みを支援することが可能だとアピールしています。
 3つ目は、伝統的IT企業と金融とが融合した企業です。百融雲創や商湯科技などが代表です。IT企業であるがゆえ全面的なソリューション開発に強みを持つとして、様々なニーズに対応することができると訴求しています。
 果たして、中国国内にはデジタル関連の会社が何社あるのでしょうか?ピッタリの統計は見つからなかったのですが、いくつかの数字をピックアップしてみてみましょう。
 まず、中国で既存のデジタル経済関連企業は159.9万社を超えているとされています。この数字は毎年増えており、2022年には新規登録社数が53.3万社で、一昨年と比べ、52.67%増加したといいます。次に、財経調査会社のレポートによると2023年3月までに、会社名にフィンテック(金融科技)がついている企業数は約33,000社だそうです。また、2022年3月までに中国ではブロックチェーン企業数が1,300社を突破したとの発表がありました。さらに、2023年中国ビッグデータ(潜在)ユニコーン企業調査報告書によると、中国のビッグデータ(潜在的)ユニコーン企業は259社だそうです。
 デジタル技術の進展にともない、脱炭素分野において、これからも様々な新しい取り組みが生まれてくるでしょう。ますます期待が高まります。

 
2.今月のトピックス
【国有資産委員会】上場中央企業のESG開示ガイドラインを下半期に公表
 国有資産監督管理委員会(SASAC)は2023年末までに上場中央企業が全社ESG情報を開示するよう推進しており、上場中央企業のためのESG情報開示ガイドラインが今年下半期に公表される見通しになったと明らかにした。業界関係者によると、この動きは、上場中央企業のESG情報開示作業が加速することを意味し、資本市場や投資家が上場中央企業の価値をより全面的に評価するのに役立つという。また、証券会社関係者は、「当局が、制度、行動規範、情報開示のテンプレート、格付け・評価制度など、既存の慣行を整理した上で、個別業界に適したESGガバナンス規範を整備する必要がある」と提案した。
2023-4‐10 国資データセンター
http://www.sadc.net.cn/listing/newsshow.php?id=22170
コメント:Windデータおよび上場企業発表の統計によると、3月1日からスタートしたESG報告書の開示期間において、4月19日までにA株に属する上場中央企業237社が年次ESG報告書を発表したといいます。A株に属する上場中央企業の社数が合計438社であることから、半分強の割合です。これら企業の時価総額はA株全体の29%であり、こうしたESG情報開示規制は、マーケットをリードする役割を果たすでしょう。ガイドラインの検討は、2022年下半期から始められ、中央財経大学国際グリーン金融研究院が国有資産監督管理委員会研究センターの指導の下で牽引してきました。特に、ガバナンス(G)関連指標の構築と定性・定量の開示が重点項目となっています。

【広東省】香港と広東省がカーボンラベルの相互承認を推進
 広東省低炭素発展促進協会カーボンラベル委員会と香港中国製造業協会は25日、広東省と香港がカーボンラベルの相互承認に関する覚書を締結した。承認対象は代表的製品に限定される。カーボンラベルは、生産工程において排出する温室効果ガスの量を定量化して、明記し、ラベルの形で関連情報を消費者に伝えるもの。低炭素生産と低炭素消費を導く仕組みとして期待されている。
2023-4-27 広東省人民政府
https://www.gz.gov.cn/zt/qltjygadwqjsxsdzgzlfzdf/mtjj/content/post_8951929.html
コメント:広東省カーボンラベルとは、「広東省商品カーボンフットプリント評価・表示」の略称で、各種製品の材料使用、製造、輸送、使用、廃棄の全過程で発生する二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を評価し、その排出量情報をラベルという形で一般に開示するものです。欧州における炭素国境調整メカニズムなどのグリーン貿易政策は、今後、広東省の対外貿易輸出に大きな影響を与えるだろうとの見通しから、広東省は自主的にカーボンラベリング関連制度と仕組み作りに2022年から着手し、推進してきました。昨年、広東省は中国大陸で初の省級カーボンラベルを発表し、10社の有名企業に広東省カーボンラベル証明書の第一陣が発行されました。カーボンラベルの適用範囲は、電子機器、電気製品、石油化学・化学製品、照明、紙製品など多岐にわたります。カーボンラベルは香港との相互認証を通じ、そのアピール力を一層増すことになるでしょう。


3.今月のニュース
 【自然資源部】ブルーカーボン関連技術規定シリーズを公表

 5月13日、自然資源部は、6つのブルーカーボン関連の技術規定を公表した。マングローブ、塩沼、藻場の3種類のブルーカーボン生態系の炭素ストック調査と評価、炭素クレジット計量とモニタリングの方法などである。IPCCが推奨する方法論など国際基準に基づき、中国の国情を踏まえて作成した。
2023-5-22 自然資源部
http://nr.gd.gov.cn/xwdtnew/hydt/content/post_4186545.html

【人民銀行】中国・シンガポールグリーン金融作業部会第1回会合が重慶で開催
 中国・シンガポールのグリーン金融基準、グリーン金融商品のイノベーション、グリーン金融と炭素市場の発展を支援するフィンテック、という3テーマについて研究グループを立ち上げ、共同研究を実施することで合意した。
2023-4-24 Sina財経
https://finance.sina.com.cn/esg/2023-04-24/doc-imyrnefr4746523.shtml

【グリーン金融専門委員会】英中グリーン金融作業部会第5回会合、ロンドンで開催
 中英グリーン金融作業部会は2018年に発足、二国間協力メカニズムである。今回の会議では一帯一路グリーン投資、環境情報開示、ESG投資・運用の分野における中英間の協力の拡大を議論。
2023-5-28 グリーン金融専門委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=4066

【広州市】排出権取引センターがカーボンアカウントサービス・プラットフォーム公開
 4月19日よりプラットフォームのオンラインテストを開始。ワンストップサービスの「炭素情報登録プラットフォーム」、ブロックチェーンが支える「炭素データトレーサビリティプラットフォーム」、相互運用管理の「炭素アカウント統合プラットフォーム」から構成。
2023-4-19 広州排出権取引センター
https://www.cnemission.com/article/news/jysdt/202304/20230400002921.shtml

【海南島】「自然由来製品の生産値(GEP)会計に関する技術規範(試行)」公表
 海南省は、地域の実態を反映させた自然由来製品の価値を評価するシステムを模索し、省のGEP会計の作業の標準化を指導するため、当該技術仕様(試行)を開発した。
2023-4-19 広州排出権取引センター
http://hnsthb.hainan.gov.cn/xxgk/0200/0202/hjywgl/kjbz/202304/t20230421_3403463_mo.html

【上海市】「小中学生のためのグリーン・低炭素行動指針(パブコメ)」を公表
 小中学生を対象とする衣・食・住・交通・学習の5分野での初めてのガイドブックとなる。古着のリサイクル・再利用、新エネ車利用など、小中学生が実践できる20の行動を明記。
2023-4-24 Sina財経
https://finance.sina.com.cn/esg/2023-04-24/doc-imyrmxxr3546856.shtml?cre=tianyi&mod=pcpager_news&loc=19&r=0&rfunc=46&tj=cxvertical_pc_pager_news&tr=174

【中国銀行】赣江新区で初の「炭素排出削減連動型」風力発電M&A融資を実行
 中国銀行は、江西高速電気建設新エネ有限公司に対して、初の「炭素排出削減連動型」風力発電M&Aローンを81百万元の規模で実行した。
2023-4-1 緑金委
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=4018

【BNPパリバ(中国)】中国・EU共通分類目録に基づく世界初のグリーン融資に調印
 BNPパリバ(中国)は上海化学工業区産業ガス(SCIPIG)にグリーン融資を実行。BNPパリバが単独の融資元で融資額は5億人民元。水素製造に関し厳しいグリーン基準を定めたEU-中国共通基準に準拠
2023-4-20 Sina財経
https://finance.sina.com.cn/esg/2023-04-20/doc-imyqzcvp7606220.shtml

紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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