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対話AIをどう使うか

2023年06月13日 齊木大


 ChatGPTの登場をきっかけに、さまざまな生成系の対話AIが話題になっている。人口減少が世界に類を見ないスピードで進む「縮小社会」にある日本では、あらゆる業務において省人化・省力化が不可避だ。セキュリティや倫理面の課題も指摘されているが、対話AIは必要な業務変革を支える最も有効な道具の一つとして育っていくことは間違いないだろう。
 ただし、ヒトの業務を置き換えるだけでは、デジタイゼーションあるいはデジタライゼーションに留まる。DXの本質が、「今埋もれている価値を掘り起こして、社会に新しい価値をもたらすこと」であるなら、対話AIを使うにしても新しい価値に目を向けた使い方を目指したい。では、それは何か?

 筆者は、「対話」という形式が創出する新たな価値に注目したいと考えている。対話(ダイアログ)は、ヒトの認識や理解を具現化したり掘り下げたりする過程で重要な役割を果たすことが古くから知られている。そこで、対話AIとのやり取りを通じて、言葉になっていなかった自分の考えを表出したり、ぼんやりと考えていたことへの関心を高めたりといった思考の変化を、ヒトが実感できるようになる可能性を展望することができる。もちろん、このような活用を実現するためには、ヒトが発する言語を理解したり、インターネット上の言語資源に基づいて文章を紡いだりするだけでなく、ヒトが考えを定めたり意思決定をしたりする過程を踏まえた対話AIの使い方を明らかにする必要がある。ただ、いずれにせよ、先進的な技術のさらなる進化だけを追い求めるのではなく、それら技術をどのように業務の流れに位置付けて使うと良いのか、その「使い方」を同時に探求することが大切だ。

 筆者は、長らくケアマネジメントや在宅介護分野でさまざまなプロジェクトに関わってきた。カウンセリング(相談援助)はAIに代替されにくい仕事の代表格ではないだろうか。実際、熟達した専門家は、言葉だけでなくノンバーバルなシグナルも目いっぱい活用することで、相談者が自ら考え、決めることを支えている。その技術たるや、あらゆるAIを組み合わせたとしても当面追いつけるものではない。
 しかし、専門家の知見には対話AIの「使い方」のヒントが多く含まれる。例えば、どのように面談を組み立てるか、質問に際してどのように言葉を選ぶと良いか、あくまでも相手の思考や決断を尊重するために何を「言わない」か、など挙げれば切りがない。対話AIの技術そのものが急速に進歩し、実用しやすい環境になってきたからこそ、改めて専門家の知見に学び、実務的な業務プロセスを考え、活用に向けて取り組むべき時が来た。

 そこで私たちは、まずアクティブシニア(年齢で区切る必要はないが目安は60~70歳代)が、普段の生活の状況を捉え、実現したいことや困りごとがあればそれを明らかにして他者に繋げられることを支える対話AIの使い方を明らかにしたいと考えた、具体的には、対話AIプラットフォームを有するベンチャー企業と協働での実証を企画している。
「高齢者のセルフマネジメントを向上させる対話AIサービスの活用方策を協働で検討開始」
 対話AIの活用に関心はあるが、技術面でのハードルが大きかったり、実証するにしてもその環境を自社だけで整備するのは難しかったりする企業や自治体等でも、対話AIを活用の実際を知って頂くショーケースのような場とする予定だ。業界・業種をこえて、未来の生活像を創りたいという関心を持つさまざまな方々とともに、ヒトが暮らしやすい対話AIの実装へ向けて取り組んでいきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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