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リサーチ・フォーカス No.2023-008

OECD薬剤費統計の留意点

2023年05月30日 成瀬道紀


製薬業界を中心とした近年の薬剤費抑制策の弊害を指摘する声と、財務省など更なる薬剤費抑制策を求める声がせめぎ合い、政策の行方は不透明度を増している。わが国の薬剤費への資源配分の特徴を客観的に評価するには、諸外国との比較が有効である。薬剤費の国際比較は、SHA(A System of Health Accounts)と呼ばれる国際基準に基づき推計された健康支出(Health Expenditure)のOECD公表値により行われるのが通例であり、重要な政策決定の場面でもしばしば用いられる。わが国の健康支出のOECD公表値は、医療経済研究機構(IHEP)の推計によるものである。SHAでは、薬剤費に関する項目が、処方薬、OTC薬、総薬剤費の三つあり、直近の公表値は、それぞれ約 10.9 兆円、1.7 兆円、1.4 兆円である。

わが国の薬剤費に関するOECD公表値に関して、以下の留意点が指摘できる。第 1 に、SHAの定義では、処方薬に含まれる薬剤は最終財に限定される。具体的には、薬局で調剤される薬剤と、医療機関で患者に交付され自宅などで服用される薬剤が該当する。よって、中間財、すなわち入院中における点滴など他の医療サービスと一体的に提供される薬剤は含まない。中間財としての薬剤は、正確な把握が難しいが 3~4 兆円規模に達するとみられる。第 2 に、SHAの定義では、処方薬は薬剤に付随するサービスの費用を含む。実際わが国のOECD公表値にも薬局の技術料約 2 兆円が算入されているとみられる。第 3 に、処方薬の直近の 2019 年度の数値は 1 兆 7,000 億円程度過大推計とみられる。但し、その理由は不明である。第 4 に、OTC薬は 3,000 億円程度の経常的な過大推計の可能性がある。第 5 に、総薬剤費は、明らかな異常値である。総薬剤費の定義は、処方薬、OTC薬、中間財としての薬剤の合計であり、処方薬より小さくなることはありえない。第 6 に、公表時期が遅いことである。わが国の直近の公表値は 2019 年度である。

今後のわが国の薬剤費推計の改善に向けて、処方薬、OTC薬は推計に最低限必要なデータは揃っており、推計主体のIHEPまたは政府自ら推計方法を広く開示したうえで、それに則った精度の高い推計を実施すべきである。総薬剤費は、中間財としての薬剤の費用を推計するための国内のデータ整備から取り組む必要がある。

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