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ビューポイント No.2023-003

少子化対策への社会保険料利用8つの問題点

2023年05月23日 西沢和彦


少子化対策の財源について、2023 年6 月の骨太の方針策定までに大枠が示される予定となっており、社会保険料を利用する案が論点の1つとなっている。

本稿は、その案にまつわる数多くある問題点を8つに絞り込み整理した。
1. そもそも社会保険料の使い道と料率は、健康保険組合など保険集団内において自律的に決定されるものであり、政治家による社会保険料の利用への言及自体が、そうした保険者自治の侵害にあたる。

2. 出生率の引き上げという目的は、社会保険本来の目的である老齢・障害・疾病などリスクの発生への備えではなく、その財源に社会保険料は適さない。

3. 社会保険料は、社会保険のために設計されており、それを税の代替として用いることにより深刻な問題が発生する。大きく3点を指摘でき、その1つめが水平的公平に反することである。いわば高所得者優遇、高齢者優遇、資産家優遇が生じる。

4. 税の代替としての利用の問題点の2つめは、国民年金保険料の定額負担に代表される逆進性、および、国民健康保険料における年金受給者優遇など社会保険料固有の問題が少子化対策の財源にも引き継がれることである。

5. 税の代替としての利用の問題点の3つめは、若者の雇用の不安定をはじめとする雇用や経済への悪影響など中立性に顕著な難があることである。

6. 少子化対策への社会保険料利用は、わが国の社会保険制度最大の欠陥ともいえる複雑化を一段と進行させる。

7. 既に窮状にある社会保険財政を一段と圧迫し、持続可能性を低下させる。

8. 社会保険料を税の代替として利用すれば、国の単年度の一般会計収支を取り繕うことは出来るものの、長期的にみれば財政健全化にむしろ逆行する。1つめは、消費税を財源の選択肢から外していることにより、いずれ税率引き上げが必要な消費税への理解深化の機会を逸している。2つめは、少子化対策への社会保険利用には、負担と給付のリンクが存在しないことから、給付の効率化への監視の目が届きにくく、歳出が拡大しやすい。3つめは、特別会計で経理された場合、やはりチェックが甘くなりがちである。

現下の議論は、税を封印しながら子ども予算倍増を掲げている点で無理がある。子どもの幸せにとって真に必要な政策は何か、原点に立ち還った議論が求められる。


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