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認知症の診断・治療技術イノベーションを見据えた環境整備に関する提言

2023年05月22日 徳永陽太、森下宏樹、土屋敦司、小林綾香、紀伊信之


本レポートの背景と狙い
 認知症は、2025年には、高齢者の5人に1人が発症すると言われており、自分自身や身近な人が認知症になることが誰にとっても起こるようになる。その結果、当事者(本レポートにおいては、本人やその家族等を「当事者」と総称する)、そして社会全体にとっても大きな影響を及ぼすことが想定され、認知症にまつわるさまざまな社会課題がより一層深刻化することが懸念される。高齢化の進展に伴い、さまざまな認知症関連の課題が存在する日本は、認知症にまつわる課題の先進国であると言え、認知症対策はわが国が諸外国をリードすべき分野であると考えられる。
 これまでの認知症施策に関するさまざまな議論でも取り上げられているように、認知症の人が社会の一員として日常生活を送り、その尊厳が守られるような「共生社会」の実現は、私たちの社会にとって非常に重要である。共生社会の実現については、医療的な介入だけでなく、日常生活支援に関わる介護・ケアに関する課題解決も併せて行うことが必要不可欠となっている。
 近年、認知症に関連した診断・治療技術のイノベーションが創出されつつあり、医療に関する環境が大きく変わる可能性がある。しかし、診断・治療技術イノベーションが創出されたとしても、技術を必要とするすべての人が適切に享受するための準備が整っていない現状がある。技術イノベーションだけでは共生社会の実現は困難であることに留意する必要があるが、技術イノベーションが創出されることにより、認知症にまつわる社会課題が解決される一つのきっかけとなることが期待され、共生社会の実現に向けて着実に前進すると考えられる。そのため、近い将来に創出が見込まれる診断・治療技術イノベーションを最大限有効活用することを見据えるなら、今、国家戦略として推進すべき環境整備に関する課題が存在する。
 これらの背景より、近い将来に創出が見込まれる認知症の診断・治療技術イノベーションの恩恵を、社会全体として最大限享受するために、各ステークホルダーが環境整備に関する検討をする際の材料となることを狙いとし、本提言を発出する。

【本レポートのスコープ】
● 診断・治療技術イノベーションへの期待とイノベーションの限界
● 共生社会実現に向けた診断・治療技術イノベーションの意義
● 診断・治療技術イノベーションを最大限享受するために必要となる環境整備に関する提言

【本レポートの前提:『認知症』と『アルツハイマー病』】
 認知症には、さまざまな状態が存在するが、特にアルツハイマー病を原因疾患とする認知症は、認知症の中でも大きな発現割合を占めること、また緩やかに進行し長期的なケアが必要な病態であるため早期診断・治療の価値が高いことが特徴となっている。

『認知症』のポイント(※1)
 認知症とは特定の病名ではなく、脳の病気や障害などさまざまな原因により認知機能が低下し、日常生活に支障が出てくる状態を指す。主な症状は記憶障害や理解・判断力障害等であり、この他にも個々人の性格や日常生活環境等によって、心理面・行動面でもさまざまな症状が表れることがある。
 日本における社会的コスト(医療費・介護費・インフォーマルケアコスト)という観点では、認知症の社会的コストは、2020年時点で年間約17.4兆円程度(※2)と試算されている。同じく社会的コストが高いと言われているがんでは年間5兆円程度という研究結果(※3)があり、両試算は前提が異なるものの、認知症の社会的コストは相当程度の大きさであることがわかる。
 また、正常な状態と認知症の間で、記憶力や注意力などの認知機能に低下がみられる状態を軽度認知障害(MCI)と言う。日常生活に支障をきたすほどではないことから、MCIであることが気付かれないまま認知症に移行する人も少なくないと考えられる。

『アルツハイマー病』のポイント(※4)
 アルツハイマー病は認知症の原因疾患の一つであり、アルツハイマー病により認知症に至った場合の状態をアルツハイマー型認知症と呼ぶ。アルツハイマー病は脳神経が変性して脳の一部が萎縮していくものであり、その過程で生じるアルツハイマー型認知症は、認知症の中で発生頻度が最も高いとされている。
 脳内の病理変化は、臨床症状が表れるおよそ10-20年前から表われ、緩やかに進行することから、初期においては、加齢によるもの忘れ等との区別がつきづらく、発見が遅れることが多いことも特徴である。こうしたことから、アルツハイマー病については、早期診断・治療が極めて重要であるとされている。

※詳細につきましては、下記の提言本文・概要資料をご参照ください。
【認知症の診断・治療技術イノベーションを見据えた環境整備に関する提言】
【概要資料】

(※1) 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」、一般社団法人日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」
(※2) 佐渡充洋「わが国における認知症の経済的影響に関する研究」(平成26年度厚生労働省科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業)
(※3) 一般社団法人 日本パブリックアフェアーズ協会「国民皆保険制度を次世代に引き継ぐために~給付と負担の再構築に向けた一考察~」2021年4月1日
(※4) 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」、一般社団法人日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」

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