コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

リサーチ・フォーカス No.2023-005

賃上げ定着のカギ握る高齢者の値上げ耐性―労働参加の促進で所得環境の改善を―

2023年05月10日 西岡慎一


わが国では賃上げ機運が高まっている。今年の春闘では、例年にないベースアップが実施され、正社員を中心に所定内給与が引き上げられる見込みである。エネルギー高による物価上昇や深刻な人手不足が継続することを踏まえると、来年の春闘でも本年並みの賃上げが実施される可能性がある。

こうした賃金上昇が定着するためには、人件費の増加が適切に価格転嫁され、企業が賃上げの原資を確保することが重要である。円滑な価格転嫁のためには、家計の値上げ耐性を高めることが不可欠である。このためには、労働生産性の改善を通じて、物価上昇を上回る賃金の引き上げが必要となる。

もっとも、実質賃金が上昇したとしても、引退世代の所得環境は必ずしも改善しない点に注意を要する。マクロ経済スライドの発動で公的年金の伸びは物価の伸びよりも抑えられる可能性が高い。さらに、金融政策の正常化は慎重に進められるとみられ、当面は金利収入の増加も見込めない。引退世帯の消費は全体の4割近くを占めるだけに、物価上昇で引退世帯の消費意欲が減退すると、消費は盛り上がりに欠け、企業の価格転嫁姿勢が後退する可能性がある。試算によれば、実質賃金が1%上昇しても、物価上昇による公的年金の目減りで引退世代の消費が減少する結果、経済全体の消費は0.3%押し上げられるにとどまる。

高齢者の値上げ耐性を高めるためにも、労働所得を得ることで年金所得を補完することが一案となる。コロナ流行後、60歳代後半の労働参加が鈍っているだけに、企業は高齢雇用者の処遇改定や健康の確保措置などが課題となる。一定以上の収入を得る年金受給者への給付減額措置を緩和することも一考に値しよう。


(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)



経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ