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JRIレビュー Vol.4,No.107

薬剤師供給の在り方 -薬剤師の将来ビジョンを描き薬学部定員半減と臨床教育強化を-

2023年04月19日 成瀬道紀


わが国の薬剤師養成課程、すなわち大学の薬学部教育は、量、質ともに大きな課題を抱えている。まず、量に関しては、薬学部定員が過剰であり、将来的な薬剤師の供給過多が懸念される。わが国は人口当たりの薬剤師数が国際的に突出している。主因は、海外では調剤補助員など薬剤師以外が行う、薬の取り揃えなどの薬学的専門知識が必要ない業務を、薬剤師が行っているためである。背景には、調剤を薬剤師の独占業務とする薬剤師法上の規制と、職種間で役割分担するほどの従事者数がいない小規模薬局の多さが指摘できる。将来的には自動化される可能性が高いこうした業務を薬剤師が担い続ける前提で、大量の薬剤師を養成することは好ましくない。

次に質に関しては、大きく二つの課題がある。一つは、薬学部への入学者の選抜の問題である。入学希望者に比べて定員が多いため、一部の大学では入学試験で必要な学力を有する学生を選抜できていない。これは薬剤師国家試験の合格率の低さや、6年間で卒業できない学生の多さに繋がっている。もう一つは、臨床教育の不足である。2006年度入学生から薬剤師養成課程の薬学部は6年制になり、臨床教育が充実されたものの、実務実習は22週間と医学部の72週間に比べてなお短い。しかも、本来臨床に関する知識を集中的に学ぶべき5~6年次に国家試験対策に精力を費やしている面も否めない。

厚生労働省は薬剤師の需給推計を行い将来的な供給過多の可能性を指摘しているが、推計結果が薬学部定員管理の施策に活用されてこなかったうえ、現状の延長線上の薬剤師業務を前提としており、薬剤師の将来需要を過大評価している可能性が高い。本稿では、薬学的専門知識が不要な業務を調剤補助員等へタスクシフトまたは自動化する一方、服薬指導などの本来的な業務を充実する将来ビジョンのもと、薬剤師の将来需要を推計した。その結果、薬剤師需要は2020年の32万人から2045年には30万人への減少が見込まれ、現状の薬剤師国家試験の合格者数が続いた場合薬剤師は11万人余剰となる。

以上を踏まえ、以下の3点を提言する。第1に、上記の将来ビジョンの策定と共有である。薬局は安易に薬剤師を増員せず、薬剤師以外の従業員へのタスクシフトや自動化を進めることが求められる。こうした薬局の動きをサポートするには、薬剤師法による規制の緩和と、小規模薬局を優遇する現行の調剤報酬体系の見直しが有効である。第2に、薬学部の定員の半減である。具体策としては、受験生や保護者への各大学の情報の周知を通じた市場メカニズムの活用、一定の水準に満たない大学への助成金の減額・廃止などである。第3に、臨床教育の強化である。定員削減により、限られた実習リソースでも一人当たりの実習期間を延長できる。さらに、国家試験相当の試験を2年間前倒しすることで、5~6年次に臨床教育により重点を置くことが可能となる。

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