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無人自動運転移動サービスの社会実装に向けて

2023年04月25日 泰平苑子


 2023年4月、改正道路交通法が施行され、「特定自動運行」に係る許可制度の創設が定められた。特定自動運行とは、レベル4に相当する運転者がいない状態での自動運転を行うことである。これは国が検討を進める無人自動運転移動サービスの社会実装を後押しするものだ。許可制度では、都道府県公安委員会が許可の検討にあたって市町村の長等への意見聴取が求められることとなった、これは、道路交通法第75条13項五で「特定自動運行が人又は物の運送を目的とするものであって、当該運送が地域住民の利便性又は福祉の向上に資すると認められること」を許可の基準にしたが故の規定と考えられる。法律の運用においては、外形的にこれをどう認定するかが焦点となるだろう。「人又は物の運送を目的とする」点からは、自動運転を行おうとする者は、当初、乗合バス等の旅客輸送やトラック等を用いた貨物輸送(配送含む)の事業者が中心となろう。事業者の一義的な動機は、運転者の高齢化に伴う人材不足や人件費圧迫による事業採算悪化への対応であり、業務効率改善のための自動運転導入であることが想像される。市町村の長等に意見を聞く、「地域住民の利便性又は福祉の向上に資するか」との繋がりを見出せるのか、疑問の声がないわけではない。

 当該運送の事業者と走行区域の市町村の両者に生まれる変化に関して、その因果関係の整理に役立つのがロジックモデルである。ロジックモデルとは、1960年代後半に米国国際開発庁(USAID)が開発したロジカルフレームワークが起源である。ロジックモデルは、資源のインプット、活動、アウトカムないしはインパクトの関係を、論理的に因果関係を図解する。これを用いて、自動運転が、短期的アウトカムとして事業者の目的に資するものであり、中長期的アウトカムないしはインパクトとして市町村の目的に資することにつながると図示できれば、事業者による特定自動運行が、地域住民の利便性又は福祉の向上に資すると説明できる一助になろう。ロジックモデルを活用できるのは、都道府県公安委員会から市町村の長等への意見聴取の機会だけではない。運用開始後、市町村は当該運送が地域住民の利便性又は福祉の向上に寄与したかどうか、検証することに役立つにも違いない。ロジックモデルで整理した各因子に評価項目を定め、検証を行うことで、最終的に市町村の政策目的の実現に貢献したか確認できる。いわゆる、EBPM Evidence Based Policy Making 「エビデンスに基づく政策立案」の視点から、当該運送の計画達成状況の評価・改善に利用することができるのだ。

 国は、2025年度50地域での無人自動運転サービスの社会実装を目指し、産学官が連携し、取り組みを進めるという。今回の法律施行に伴い、実現に向けた道筋も具体的になってきた。203x年に向けて、運転者不足や事業採算などの事業者課題が解決すると同時に、人々の暮らしを支える持続可能な人や物の移動サービスが提供される状況が実現するのは、案外近いかもしれない。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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