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行政におけるデザイン組織活用の動き ~庁内外でのエコシステム形成が鍵~

2022年12月01日 水嶋輝元


行政で始まった「デザイン」を政策に活かす組織づくり
 人間中心起点で課題の設定から解決までを進める「広義のデザイン」が日本の行政でも取り入れられはじめている。政策や公共サービスの企画・実施について、利用者となる市民への共感や理解を得た上で民間企業などの関与を得ながら進めるアプローチは、これまでの行政にはなじみがないため、省庁や自治体でデザインのための組織が新たに設置されるようになってきた。
 デジタル庁では、ユーザー中心のサービスデザイン体制の確立を目指し、デザインやウェブアクセシビリティの専門人材を集め、「サービスデザインユニット」が立ち上がった。また、経済産業省では、若手職員による有志チーム
「JAPAN+D」が組成され、省内でのデザインアプローチ普及に取り組んでいる。自治体でも同様の動きが見られるようになり、例えば、福井県未来戦略課では、デザイナーやクリエイターが政策づくりに参加し、新しい発想で公共のあり方を考える「パブリック・デザイン」を実践している。
 こうした庁内のデザイン組織では、いずれもデザインの活用を新たに捉え直した活動を行っている。一点目はその
「目的」で、行政側の課題解決ツールとしてだけでなく、市民の目線で課題を再定義することに利用している。二点目は「領域」で、今まで主であった産業分野にとどまらず、政策分野にまで広げている。三点目は「段階」である。方向性が一定程度決定した事業の実施段階から、より上流の政策立案段階にも組み込もうとしている。
 このようなデザイン組織設立の動きは今後、全国の多くの自治体にも波及すると考えられる。

海外調査から見えた庁内デザイン組織のあり方
 一方で欧米での庁内デザイン組織の組成は、日本の数年先を行く。公共におけるデザイン活用の先進地域の⼀つである北欧フィンランドでは、⾏政・⼤学・民間企業(デザイン事務所)など立ち位置の異なる組織同士が、産業分野だけでなく政策分野でもデザインを軸に連携している。
 日本総研では武蔵野美術大学との共同研究として、ヘルシンキ市のデザイン組織への現地インタビュー調査を実施した。ヘルシンキ市役所内に組成されたヘルシンキラボは、社会科学や建築など多様なバックグラウンドを持つ約 10 名の職員で構成され、庁内でのデザイン実務や人材育成のほか、民間からのデザイン機能の調達支援などを主な役割としている。
 調査で明らかになったのは、庁内でデザインの有用性およびデザイン組織の位置づけが確立されていたことである。これは、ヘルシンキラボ設立前からスポークスパーソンとしての CDO(チーフデザインオフィサー)を登用し、庁内外でのネットワーク拡大などに従事させてきた成果といえる。
 庁外と積極的に関係を構築することが、限られた人員で運営するヘルシンキラボにとって欠かせないものであることも分かった。ヘルシンキラボでは多数のデザイン事務所と協定を結び、公募・競争入札の壁を取り払うなどして連携を容易にし、いわばエコシステムを構築している。これによって、担当部局から年間 150 件ほど寄せられる相談に対し、課題のリフレーミングから調達先の選定まで多様なサポートの提供が可能となっているのである。

庁内外でエコシステムを形成することの重要性
 ヘルシンキラボのこうした活動は、日本のデザイン組織の今後の発展可能性を考える上で参考になる。ただしヘルシンキラボの活躍は、庁内職員のみで成立していないことに留意が必要である。上述のとおり、実務でのデザイン実践では民間企業が重要な役割を果たしているほか、人材育成やナレッジの開発はアアルト大学と長年にわたり共同して取り組まれてきたものである。
 地域で新たなイノベーションを起こす共創の場の創出にはスタートアップや住民の参加が不可欠であり、産官学や市民など様々なアクターが共同できる関係性の構築が重要になる。前述の国や自治体のデザイン組織でも、自らが主体となって政策形成に関与するばかりでなく、担当部局と外部のデザイン人材や企業とをつなぐといった形の支援が増えている。
 外部に開かれたネットワークを構築し、オープンな姿勢での取り組みを積み重ねていくことが、中長期的に庁内外でのデザインエコシステムの形成につながると考えられる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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