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アジア・マンスリー 2023年3月号

一段と高まる日本企業のインドビジネスへの関心

2023年03月01日 熊谷章太郎


中国の政治・経済を巡る不透明感が続くなか、日本企業はインドビジネスへの関心をこれまで以上に高めている。ただし、インドのビジネス環境の改善がなければ対印投資は増加しない可能性がある。

■着実に高まるインド経済の存在感
経済・社会がコロナ禍から正常化しつつあることを受けて、インドでは底堅い経済成長が続いており、世界経済における存在感を着実に高めている。2022年のドル建て名目GDPは英国を抜き、米国、中国、日本、ドイツに続く世界5位になったと見込まれる。2022年の自動車販売台数は日本を上回り、中国、米国に次ぐ世界第3位になった。さらに、国連の推計によると、インドは2023年中に中国を超えて世界一の人口大国になると見込まれる。

他の新興国と比べたキャッチアップ余力の大きさや人口動態などを踏まえると、今後も世界経済におけるインドのプレゼンスは高まっていく公算が大きい。現在の一人当たり名目GDPは2,000ドル台に過ぎず、人口当たりで見た自動車販売台数は依然として諸外国を大幅に下回っている。今後、中間所得層の拡大により自動車や家電といった耐久消費財の普及が加速するほか、都市化も進展し、内需をけん引役とする経済成長が続く見込みである。

中国経済の停滞感が強まっていることもインドが存在感を高めている一因である。ゼロコロナ政策を主因に2022年の中国の実質GDPは前年比+3%に鈍化した。2023年は同政策の解除を受けて景気は持ち直すと見込まれるものの、米中対立など政治・経済の不透明感は強い。中国の一人当たり名目GDPはすでに12,000ドルを上回っており、諸外国の経験を踏まえると経済の成熟化で成長率は鈍化すると考えられる。IMFは中国の2022~27年の平均実質成長率が+4%台に鈍化する一方、インドは+5%台との見方を示している。

このような中国とインドの経済情勢の違いを理由に、日本企業は中国に代わる事業展開先としてインドへの関心をこれまで以上に高めている。2022年にJETRO(日本貿易振興機構)が在アジア日系企業に対して実施したアンケート調査によると、今後1~2年で中国事業の拡大を検討していると回答した企業の割合は約3割にとどまる一方、インド事業については7割超が拡大を検討していると回答した。製造業を対象とするJBIC(国際協力銀行)のアンケート調査においても、短期(今後3年程度)と長期(今後10年程度)の有望事業展開先でインドは首位を記録し、中国との得票率の差は前年度の調査から拡大した。


■過去のインドブームの局面で日本の対印投資は増加せず
過去の経験を踏まえると、日本企業のインドビジネスに対する関心の高まりが直ちに対印投資や日印貿易の拡大に直結しないことには留意が必要である。

グジャラート州首相時代に外資誘致に向けて積極的な経済改革を実行したモディ氏を首相とする政権が2014年に発足した際、わが国のインドビジネスに対する関心はにわかに高まった。当時も中国の経済成長率の鈍化や人件費の上昇などを背景に、生産拠点が中国から東南アジアや南アジアにシフトするとの機運が高まった。しかし、結果的にわが国の対印直接投資は中国やASEAN向けを下回り続けた。インドに進出した日系企業数の増加ペースはモディ政権発足後にむしろ鈍化しており、拠点数は2019年以降、減少している。

日本企業がインドビジネスに高い関心を持ちながらも、進出が進まなかった理由として以下の2点が挙げられる。 

第1に、モディ政権下の大胆な制度改革やコロナ禍に伴う経済・社会の混乱が日本企業のインド進出を阻害した。①2016年の高額紙幣の廃止、②2017年のGST(財・サービス税)の導入、③2020年の厳格な排ガス規制「BS6」の導入、④コロナ禍の厳格なロックダウンなどにより、経済・社会の混乱が繰り返されたため、企業は投資を見合わせた。

第2に、ビジネス上の課題が数多く残っている点もインド進出を妨げている。モディ政権の発足以降、インドのビジネス環境は大きく改善したものの、①州ごとに異なる複雑で不透明な法制度、②他社との厳しい競争、③インフラの未整備などが日本企業のインド進出の阻害要因と指摘されている。そのため、日本企業はビジネス環境が良好で、自由貿易に前向きなASEANでの事業展開に注力している。

前者の要因は一過性であるが、後者の要因は構造的であり、今後も日本企業のインド進出を阻害し続ける。インド政府は2023年度の予算案発表時に経済改革を加速させる方針を示したが、2024年半ばに下院総選挙を控えるなか、土地制度や労働問題をはじめとする賛否両論がある分野の改革が加速するとは考えにくい。特にネックとされる土地収用問題の解決が先送りされ、インフラ整備や工場建設が遅れる状況が続けば、これまでと同様、日本企業はインドに高い関心を示しながらも本格的な進出は引き続き躊躇(ちゅうちょ)すると考えられる。
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