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日本総研ニュースレター 2023年1月号

実装機運が高まる自動運転移動サービス
~普及のポイントは自動走行しやすい走行環境~

2023年01月04日 逸見拓弘


早期実装を期待 レベル 4 自動運転「移動サービス」
 現行の道路交通法は運転者の存在を前提としており、運転者不在のレベル 4 自動運転に関する交通ルールは定められていない。そうした中、2022 年4 月に国会で可決された改正案では、レベル 4 自動運転が、運転者による「運転」とは区別され、「特定自動運行」と新たに定義された。併せて、公安委員会から運行計画の許可取得を必要とするなど、「特定自動運行」実施時の遵守事項も規定された。施行されれば、レベル4 自動運転の車両による公道走行に必要な制度は一通り整備されることになる。
 現在、自動運転の技術開発が目指すのは、あらかじめ設定された経路・車線を、交通ルールを順守しながら安全に走行する技術の確立である。これは、定ルートを走行する路線バスなどでの活用が可能となってくる段階である。
 政府は、レベル 4 自動運転による「移動サービス」「物流サービス」「自家用車」の3 事業領域についてそれぞれ市場に実装する努力目標時期を掲げているが、「移動サービス」は 2022 年度頃の運行開始が目標に設定されており、早期実装への期待が高い。

地方圏の乗合バスでの導入に強い社会的要請
 「移動サービス」で自動運転技術に期待が集まる背景には、地方圏の乗合バス事業者と、地域住民のそれぞれが抱える課題が存在する。
 地方圏の乗合バス事業者は、過疎化・少子高齢化等の影響もあって利用者減少が止まらず、長年にわたって採算悪化が進んでいる。国土交通白書 2020 によると、地方圏ではコロナ以前から 9 割近くのバス事業者が赤字の状態であったとされる。さらに、コロナ禍によって娯楽等の非日常利用者までも激減し、現在もコロナ禍以前の水準には戻っていない。また、運転手不足も深刻化しており、高齢世代の退職が進む一方で、なり手は少なく、有効求人倍率は現在の3 倍程度から今後一層上昇するとみられる。
 需要者である地域住民も、将来的に日常移動が不自由になる不安を感じ始めている。高齢者を中心に免許返納等が進み、日常移動に制約を抱える移動弱者が増加している。国土交通白書 2020 では、老後の生活に関する不安について、「車の運転ができず、移動が困難になる」を挙げた 60 代以上の回答者が地方圏で 6 割以上に上った。地域住民が安心して暮らせる生活基盤として、乗合バスを維持することへの社会的要請が一層高まっている。

早期実装のポイントは走行環境の構築の視点
 既にレベル4 自動運転サービスは、乗合バス事業者の採算改善・運転者不足解消を同時に実現し、地域公共交通 を維持させる切り札になるものと位置付けられている。経済産業省と国土交通省の共催プロジェクト「Road To L4」では、「2022 年度末に遠隔監視のみでのレベル 4 自動運転サービスの実現」「2025 年度頃までに無人自動運転サービスを40 カ所以上実現」の目標が掲げられ、全国各地で実装を目指す取り組みが活発化している。
 特に、国の後押しを受けて実装検討が推進される福井県永平寺町と茨城県日立市の事例は、レベル 4 自動運転サービス実現のフラッグシップ・プロジェクトといえる。永平寺町が取り組むのは、自転車歩行者専用道を自動運転ゴルフカートが走行する旅客輸送サービスである。2022 年度のレベル 4 事業化を目標としており、2021 年 3 月には、遠隔監視・操作者 1 名が自動運転車両 3 台を同時に遠隔監視・操作するレベル 3 での本格運行を開始している。日立市では、廃線跡のBRT 専用道の既存路線バスの自動運転化に取り組んでおり、2023~2025 年度頃にレベル 4 実現を目指すとしている。
 自動運転サービスの全国へ普及させる際の課題となるのは、自動運転がしやすい走行環境の構築である。これまでは技術実証段階であったこともあり、自動運転システムの開発ばかりに注目しがちであった。自動走行に適しているわけではない既存の走行環境を前提としてしまうと、自動運転システムのカスタマイズに高度な技術が必要となり、結果的に高額な費用がかかる。今後、本格実装段階へと移行するにあたり、自動走行しやすい走行環境、の構築、つまり道路空間や道路利用ルールを確立する視点と、安全な自動運転システムを開発する視点の 2 つの視点でバランスを見極める検討が鍵となるはずである。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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