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地域から実現する脱炭素社会 ~官民連携による地域裨益・共生型の仕組みづくり~

2022年11月01日 大島裕司


低炭素から、温室効果ガスを原則出さない「脱炭素」へ
 日本の温室効果ガス(以下「GHG」)排出抑制政策は、2005 年発効の京都議定書、そして 2016 年発効のパリ協定という国際的な枠組みへの適合を図りながら、目標値を徐々に厳しくさせてきた。
 そのような中、2020 年 10 月に発表された「2050 年カーボンニュートラル宣言」によって、GHG の排出を低減する「低炭素政策」から、原則出さない「脱炭素政策」へ舵が切られた。国が退路を断って気候変動問題に取り組む姿勢と決意を国内外に表明する、思い切った政策といえる。

各地域の変革で起こす「脱炭素ドミノ」
 「低炭素社会」を目指す中で行われた固定価格買取制度(FIT 制度)といった政策は、再エネ普及などに一定の効果を上げた。しかし、作られた電気の多くが「地消」されず、送電線を通じて外部に流され続ける地域も多かった。
 一方、「脱炭素社会」では、再エネを地域の基幹電源とし、それを経済循環の促進や強靭化につなげながら、住民の生活から経済活動までのすべてにおいて CO2 を実質的に出さない社会を作ることが求められる。現在、政府は「脱炭 素先行地域」という、民生部門の電力に由来する CO2 を実質ゼロとするモデル地域を 2030 年度までに 100 箇所以上つくろうとしている。このモデルを全国に波及させ、国全体 で「脱炭素ドミノ」を起こすことが目的である。
 例えば、この脱炭素先行地域の認定を受けた北海道石狩市は、風力発電に向いた石狩湾の風況や太陽光発電システムの設置に適した広い平地などを活用し、①変動性電源の主力電源としての利活用、②既存資源を最大限活用した社会インフラの整備、③地域密着型のサービスの提供といった取り組みを進めている。

①変動性電源の主力電源としての利活用
 風力発電や太陽光発電といった自然変動電源を主力電源として利活用するには、多様な再エネを組み合わせて安定性を確保したり、余剰電力で水素を製造・貯蔵・利用したり、蓄電池を整備したりすることなどが欠かせない。また、電力卸売市場や需給調整市場の活用が経済性の面からも重要となる。石狩市でも、現在、これらを組み合わせた最適モデルの構築に取り組んでいる。

②既存資源を最大限活用した社会インフラの整備
 設備等を共同で保有・利用するシェアリングエコノミーも、サプライチェーン全体での脱炭素化には重要な視点となる。石狩市でも、保有する公用車を住民などと共同で利活用す るサービスモデルの開発を進めようとしている。
 また、隣接する札幌市とは、ビジネス・生活の両面で密接な関係にある。一方で、両市を往来する公共交通機関はバスに限られており、実質的な交通手段は自家用車頼りとなっている。そこで、検討されているのが、索道(ロープウェイ等)を使った新たな交通システムによる利便性の向上と脱炭素化である。また、索道の整備時には、再エネ電源を融通する配電線も同時に整備し、索道の駅の一部は既存の商業施設を活用するなど、投資の抑制も図る先進的な計画を策定中である。

③地域密着型のサービスの提供
 石狩市でも、高齢化による「買い物弱者」が今後増加することが予想されている。そこで、市内に自動配送ロボットを導入し、高齢者等が購入した商品を買い物先から自宅まで運ぶなど、脱炭素モビリティサービスの普及と地域の生活支援を同時に進めるモデルの実装を目指している。

脱炭素社会構築の方向性を官民一体で共有
 脱炭素社会を実現させるには、地域に裨益し、地域と共生する形で取り組む必要がある。特に、石狩市のように、取り組みが複数存在し、それぞれがばらばらのビジネスとして動くと、設備投資の重複や人材の取り合いを引き起こし、結果として地域への裨益や共生ができなくなる恐れがある。
 そのため石狩市では、各取り組みに対し一定のガバナンスを保持し、それらを束ねて最適化するスキームづくりも検討している。具体的には、官民での事業体の設立のほか、協議会(コンソーシアム)の設立などが考えられる。
 脱炭素社会を推進する際の公共の役割は、民間が魅力的なサービスを構築できる環境を整えることだけではない。官民で連携しながら、個々のサービスが脱炭素実現という一つのベクトルに向かうスキームを構築することこそが、公共に求められる最も重要な視点といえる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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