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アジア・マンスリー 2023年2月号

鉱石の輸出禁止を拡大するインドネシア

2023年01月26日 松本充弘


インドネシアはニッケル禁輸による外資誘致の成功を受け、再び各種資源の禁輸を進めている。しかし、他の鉱石の禁輸政策は過去に失敗に終わった経緯があり、禁輸拡大が成功するかどうか不透明である。

■ニッケルに続き、ボーキサイトや銅も禁輸へ
インドネシア政府が鉱石の輸出を禁止する動きを強めている。2020年1月にニッケル鉱石の輸出を禁止したことに続き、2023年6月からはボーキサイト鉱石の輸出も禁止する。さらに、未加工の銅鉱石の輸出も年央にも禁止する方針を打ち出している。

禁輸措置の狙いは、産業構造の高度化である。天然資源が豊富なインドネシアは、かねてより輸出に占める一次産品の比率が高く、ASEAN5(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)の中で唯一50%を超えている。インドネシア政府は、世界の資源需要の動向に影響を受けやすい現状の資源依存型の経済構造から、高付加価値分野で稼ぐ経済構造へ転換することを目指している。そのために、鉱石の輸出を禁止し、精製や製錬等のプロセスを国内で実施することを義務付け、これにより高付加価値な金属加工事業を発展させることを狙っている。

ニッケル禁輸による産業の高付加価値化は、これまでのところインドネシア政府の狙い通りに進展している。2014年に2カ所しかなかったニッケル製錬所は、2021年末に16カ所へ増加した。インドネシアへの対内直接投資が、中国からの製錬所新設の投資を中心にベースメタルを含む分野で増加していることからも、禁輸措置の成果がうかがわれる。また、インドネシアは、電気自動車(EV)用バッテリーの重要な原材料であるニッケルを活かし、ニッケル生産から製錬、EV用バッテリー製造、EV生産、バッテリーのリサイクルまでを一貫して手掛ける壮大なエコシステムの構築を目指している。そのために外資の呼び込みを積極化しており、中国や韓国をはじめとする外資企業のEV用バッテリーや完成車工場への投資が相次いでいる。ジョコ大統領は、外資企業によるニッケル関連の川下分野への投資増加の成功体験から、鉱石の禁輸により加工産業を早期に発展させる術を学んだとしており、今後もすべての鉱物資源へ禁輸措置を拡げていく意向を示している。

■ニッケルの禁輸措置が成功した背景
ニッケルの禁輸が外資誘致につながった背景の一つに、インドネシアが世界最大のニッケル埋蔵量を保有し、鉱石生産量が世界1位であることが挙げられる。ニッケルの代替調達先がインドネシア以外に乏しく、海外企業はインドネシアにニッケルの加工拠点を設立せざるを得なかったと考えられる。加えて、近年はニッケルが電池材料向け用途で注目を集めており、需要拡大の期待が大きくなっていることがインドネシアへの追い風となっている。International Energy Agency は、EVの需要が増えることでニッケルの総需要が2030年までに2020年の1.5~2倍に増えると予測している。米国のバイデン政権が2021年に発表した「重要製品に関するサプライチェーン強化に向けた報告書」でも、ニッケルは今後3~7年で需給が大幅にひっ迫する可能性が指摘されている。

■資源禁輸の拡大は失敗に終わるリスク大
しかし、ニッケルと異なり、ボーキサイトや銅の禁輸は外資企業の誘致につながらず、産業の高度化が失敗に終わるリスクがある。その理由として、①インドネシアに十分なシェアがない、②製錬所など下流産業の基盤が不足している、③国際社会からの反発を受ける、等の点が挙げられる。第1に、ボーキサイトや銅のインドネシアの産出シェアは小さい。実際、インドネシアでは2014年に各種未加工鉱石の輸出を禁止したものの、2017年に規制を緩和した経緯があるが、当時ボーキサイトの最大の輸出先だった中国が、ギニアからの調達に切り替えた。これにより、インドネシアへの投資はさほど伸びず、ボーキサイトの禁輸緩和につながったとみられる。

第2に、国内の製錬能力や関連産業が十分に整備されていない。2014年の禁輸時も国内の製錬能力が不足しており、その結果、複数の鉱山が減産や閉山に追い込まれ、雇用喪失などの問題が生じたことが、禁輸緩和の一因となった。今後の禁輸措置についてもインドネシア国内から懸念の声があがっている。ボーキサイト・鉄鉱石生産者協会は、現状では国内の製錬所が少なく、ボーキサイトの現在の産出量を製錬しきれないと指摘している。インドネシア国会第7委員会(エネルギー鉱物資源、技術、環境等担当)も、国内で生産されるスズの98%が輸出されていることから、全量を国内で加工するには下流産業への大規模投資が必須としている。エネルギー鉱物資源省は、2024年までに32カ所の製錬所新設を目標としているが、このうち、ニッケルやボーキサイトなどの製錬所プロジェクト12カ所が資金調達面で問題を抱えていると公表した(2021年末時点)。さらに、インドネシア商工会議所は、脱炭素化の流れで石炭火力から電力供給を受ける製錬所への融資が敬遠されているとコメントしている。

第3に、インドネシア政府の禁輸政策に国際社会が反発している。ニッケルの禁輸措置を巡るEUとの係争では、WTO小委員会が2022年11月にインドネシアの協定違反を認めた。インドネシアは上級委員会へ上訴しているものの、上級委員会が協定違反と結論づければ、禁輸措置の修正を求められるか、取引相手国によって対抗措置が講じられる恐れがある。
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