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【ライフスタイル系のスマートフォンアプリの実態と取り組むべき施策(前編)】
-独自調査から見えてきた実態と改善ポイント-
ライフスタイル系スマートフォンアプリが直面する問題

2023年01月24日 橋本隆信


はじめに
 昨今、Yahoo!、LINE、Google、Amazon、楽天など幅広い領域をカバーするインターネット企業以外のBtoC企業でも、自社のスマートフォンアプリ(以下、アプリ)によるサービスに力を入れている。一方、その多くは提供する企業側の強い思いとは裏腹に、ユーザー側の利用をうまく促進できていないケースが多い。
 日本総合研究所では、そのような問題認識の下、特にライフスタイル系のアプリに注目した独自のアンケート調査を実施し、BtoC企業が提供するアプリの実態とその改善ポイントについて検討を行った。ライフスタイル系アプリとはユーザーが日常的に使用する、交通系(電車・バスなどの交通系企業が提供するアプリ)、生活インフラ系(ガス・電気などの生活インフラ系企業が提供するアプリ)、自治体系(自治体が提供するアプリ)、買い物系(百貨店、ショッピングモール、スーパー、ホームセンター、アパレルブランドなどが提供するアプリ)、独自ポイント系(Tポイント等の共通ポイントではなく、特定の企業の商品・サービスにのみ使用できるポイントに関するアプリ)などを今回の対象とした。
 尚、本テーマは以下の3部構成で説明を行い、本コラムはその中の前編にあたる。

(前編)ライフスタイル系スマートフォンアプリが直面する問題
(中編)アンケート結果から見えたライフスタイル系スマートフォンアプリの実態
(後編)ライフスタイル系スマートフォンアプリの取り組むべき施策

企業とユーザーのすれ違い
 企業側は自社の商品やサービスを購入、利用してもらうために、さまざまな趣向を凝らしてアプリを構築する。その際ユーザー側の利便性を考え、自社の商品やサービスに関連するような多くの機能を盛り込み、日常生活全般に必要なさまざまな機能を統合したスーパーアプリのようなアプリを目指す。サービス提供開始前には自社のWebサイトをはじめ、Web広告やSNSなどさまざまな媒体を駆使して広報活動も行う。
 ところが、いざアプリをサービスインしてみると、せっかく時間をかけて多くの機能を盛り込んだのに、そもそものアプリのダウンロード数が伸びない。サービスイン当初は、コストをかけたキャンペーンなどの一時的な販促により、ダウンロード数が伸び、当初の商品購入やサービス利用などの目標を一時的に達成できた。ところが当初のキャンペーンが終了すると一気にアクティブユーザー数が減少し、以降の目標が達成できなくなる。その後はアプリのダウンロード数が伸びず、アクティブユーザー数も減少して、目標の達成率も右肩下がりとなる。テコ入れのために、ユーザーに対してプッシュ通知で利用を促すが、それでもなかなかアクティブユーザー数は増加に転じない。結果、商品購入やサービス利用など、最終的な目的を達成できず、アプリのサービス自体が終了となる。
 これをユーザーの視点から見るとどうなっているのか。
 そもそも前述したようなライフスタイル系のアプリであれば、ほとんどの場合、Yahoo!、LINE、Google、Amazon、楽天などの総合アプリの方が使い勝手が良いと思っている。もしくは同じような機能であれば、認知度が高い方を使う。
 継続した利用意思は別として、サービスイン当初の魅力的なキャンペーンなどが目にとどまり、アプリのダウンロードを行う。ところが多くの機能が盛り込まれているために、アプリの開始前にはさまざまな個人情報などの属性情報や、スマートフォンの権限を求められ、多くのユーザーはダウンロードまではするが、アプリの利用開始には至らない。SNS連携などの機能で比較的容易にアプリの利用開始までたどり着いても、キャンペーンの商品やサービスなどの提供を受け、以降の魅力的なキャンペーンが途切れると、アクティブユーザーから離脱していく。そのまま放置していると、企業側から利用を促すさまざまなプッシュ通知などが来るので煩わしくなり、最終的にはアプリを削除する。
 もしくはアプリの価値を当初は認めていたユーザーでも、プッシュ通知によりアプリを開き利用しようとしても、実際には情報の更新頻度が低かったり、更新の範囲が狭かったりなど、全体的に情報のフレッシュさがないために、他のアプリに移行する。こちらも結果的には、自分に必要ないものと考え、最終的にはアプリを削除する。

多くのアプリが直面する問題
 企業とユーザーのすれ違いを見てみると、アプリを提供する企業側としては主に以下のような「誤認」があると考える。

・アプリは機能が豊富であればあるほど、ユーザーは利用する
 機能の豊富さであれば総合アプリに軍配が上がる。機能の多さよりもユーザーのペインポイント(顧客が商品・サービスを購入・利用しているときに生じる課題や悩み、不幸せな状況)や利用シーンを的確に把握している方が重要な可能性が高い。ユーザーの利用シーンやターゲットが明確になっていないアプリは、結果的に特徴を出せず淘汰される。

・優れた自社アプリを構築すれば、自社の商品やサービスを購入する。
 商品やサービスの検討と実際の購入などは必ずしも直結しておらず、サービス利用や購入は別ルートのケースも多い。

・個人属性や趣味趣向などさまざまな観点で分析することは有効である。
 個人の属性情報の提供に対して抵抗のあるユーザーは一定数存在する。またせっかく収集した情報を蓄積するだけで活用に至らないケースも散見される。多くの属性情報の収集がユーザーのためになるとは限らない。

・自社のアプリ内で利用可能な独自ポイントを発行すると、ユーザーの囲い込みができる。
 ポイントサービスは特定の企業に限定しない共通ポイント(楽天ポイント、Tポイント、Pontaポイント、dポイントなど)が好まれる傾向にあり、よほどの大きなインセンティブがないと独自ポイントで成果を上げるのは難しい。またユーザーの利便性を考え、共通ポイントとの相互交換を可能にした場合、独自ポイント側は共通ポイント側への交換が圧倒的に増え、ポイント原資の持ち出しになる可能性が高い。

 以上のような問題(誤認)が、実際にユーザーアンケートでどのような結果として現れるかをコラム中編で確認し、これらの問題点に対して実際に企業が取り組むべき施策をコラム後編で述べていく。
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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