コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

JRIレビュー Vol.2,No.105

コロナ禍後を見据えた観光業の雇用改革に向けた課題 -労働生産性の向上と雇用の安定による人手不足克服が急務-

2023年01月23日 藤山光雄


わが国が人口減少局面に入り、労働力の供給制約が徐々に強まるなか、様々な産業で人手不足への懸念が強まっている。こうしたなか、本稿でとりわけ観光業の雇用に焦点を当てる理由は、観光業が、わが国の幅広い地域で成長産業となる可能性を有しており、かつ、その効果が地域経済に幅広く及ぶと期待されるためである。

2020年入り後の新型コロナウイルス感染症の流行拡大を受け、わが国の観光需要は大きく落ち込んだものの、感染対策の広がりや旅行支援策、水際対策の緩和などから、持ち直しつつある。こうしたなかで、宿泊業・飲食サービス業では、観光需要が依然としてコロナ禍前の水準を下回っているにもかかわらず、早くも人手不足感の高まりがみてとれる。これは、宿泊業・飲食サービス業からいったん離れてしまった労働者が、再び労働需要が高まるなかでも、同産業に戻ってきていないためである。

宿泊業・飲食サービス業では、コロナ禍前から、休日・休暇の少なさや賃金水準の低さが雇用面の課題となってきたほか、労働環境の厳しさや非正規雇用の多さなどを背景に、離職率が高い傾向にあった。さらに、宿泊業では、労働者の高齢化が進んでいるほか、コロナ禍で産業としての安定性や将来性への懸念が強まっており、今後人手不足が一段と深刻化する恐れがある。

こうしたなかで、宿泊業・飲食サービス業が人手不足を克服するには、従来よりも少ない人員で、より高い付加価値を生み出すことができる産業を目指し、雇用のあり方や働き方を抜本的に見直していく必要がある。具体的には、まず、デジタル化・DXによる労働生産性の向上が求められる。宿泊業や飲食サービス業では、デジタル化・DXへの取り組みが遅れており、他の産業に比べ労働生産性が極めて低い。デジタル化・DXを通じて業務の効率化と労働生産性の引き上げを図り、労働環境の改善や賃上げを実現していかなければならない。さらに、優秀な労働力の確保や中長期的な人材の育成には、雇用の安定が重要となる。雇用の安定にあたっては、業務および観光需要の平準化、非正規雇用依存からの脱却に取り組む必要がある。

加えて、こうした施策を、より多くの事業者で実効性を担保しつつ実現していくためには、地域一体となった取り組みが不可欠である。また、人手不足の克服に向けた事業者の取り組みを後押しするため、国や地方自治体は、観光需要の平準化や実務人材の確保・定着に関する取り組みへの支援を強化していくべきである。

わが国の観光需要、とりわけインバウンドの本格的な回復には、なお時間がかかる公算が大きい。この機会を、観光業にたずさわる関係者自らが、雇用改革について時間をかけて検討することができる好機と捉え、積極的に生産性向上に向けた取り組みを進めるべきであろう。


(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)


経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ