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中国グリーン金融月報【2022年12月号】

2023年01月16日 王婷


中国グリーン金融月報【2022年12月号】をお届けします。

1.王の視点
中国の環境権益商品が多様化へ

 中国では「環境権益」という用語が一般化しています。日本語で「環境権」というと、良好(快適)な環境の中で生活を営む権利のような人権のひとつと解されますが、中国では少し異なります。中国の「環境権益」とは、「経済の負の外部性問題を解決するため、天然資源消費や環境負荷に関して企業や個人の許容量を設定し、総量を制御する過程で生じる、権利と利益」を意味します。政府主導の計画経済を前提とする中国ならではの概念と言えるかもしれません。代表的な環境権益商品には、グリーン電力、グリーン証書、中国認証排出削減量(以下CCER)(正式名称はChinese Certified Emission Reductionといいプロジェクトに基づく排出削減量に応じ、政府が自主的に参加する事業者に対して発行する炭素クレジット)があります。
 中国では、昨年始まった全国統一排出権取引市場の運営が無事に軌道に乗りました。今年は、全国統一CCER取引市場が再開するのではないかとの見方が強くなりつつあります。
 企業にとって、自社の炭素排出量削減目標の達成のために、グリーン電力、グリーン証書、CCERをどのように利用するか、各々にどんな違いがあるのか、メリットとデメリットは何か、実に悩ましいと言われます。本稿では、できるだけ簡潔にそれらを整理してみたいと思います。
 かつて京都議定書には、国際的なクリーン開発メカニズム(CDM)において、プロジェクトを実施する企業に対して指定運営組織(DOE)が検証し、国連理事会(EB)が発行する温室効果ガス排出削減量を指すCER - Certified Emission Reductionsというものがありました。この考え方を中国政府が継承し、中国国内の温室効果ガス排出削減取引メカニズムをつくり、CCERとして炭素クレジット取引をおこなう構想が生まれました。再エネ、水力、余熱利用、ごみ発電などが対象でしたが、2017年には取引規模が小さいなどの理由で、取引が一時停止するに至りました。しかし、全国排出権取引市場の開設に伴い、割当不足分のオフセット商品として、CCERへのニーズが高まっているのです。
 グリーン電力とは、政府が認めた再エネ発電によって作られた電力のことをいい、事業者がグリーン電力取引所を通じ、発電会社から購入し、「グリーン電力消費証明」を得るものです。政府が認めた電力消費量を上回る部分をこのグリーン電力でなら賄うことができます。
 グリーン証書とは、政府が発電企業に対して再生可能エネルギー発電量に応じ、発行する証書のことをいいます。事業者はグリーン証書を購入し、SCOPE2の削減量にカウントすることができるのです。1枚のグリーン証書は、1000kWhの陸上風力発電または1000kWh太陽光発電に相当します。
 オフセットできる対象の範囲に関しては、グリーン電力とグリーン証書は、事業者のエネルギー分野の消費量(Scope2)をオフセットすることができるのに対して、CCERは、事業者の排出割当量の5%~10%をオフセットすることができます。権益を発行する主体は、グリーン電力は、電力取引センター、グリーン証書は国家能源局傘下の再生可能エネルギー情報管理中心、CCERは生態環境部です。さらに、開発の期間とコストが異なります。CCERの開発期間は長く、許認可のプロセスが複雑でコストは大きくリスクが高い商品といえます。一方、グリーン電力とグリーン証書は、コストやリスクは小さく、値段にそれほど大きな差がなければ、グリーン証書を優先するのがよいと言われています。このほかに、有効期間の違いもあります。グリーン証書には21カ月との制限があります。ある年の排出量をオフセットするためには、当該財務年度とその年度前の6カ月と年度後の3カ月のあいだに発行された証書を購入しなければいけないとのルールがあります。他方、CCERはプロジェクトの期間中の任意の時点でオフセットすることができ、プロジェクトの性質にもよりますが、一般的に10年が可能です。
 中国のグローバル輸出企業の場合、グローバル環境規制に対応するために「100%グリーン電力利用」との目標を表明しつつ、実際には①太陽光など再エネ発電の自社開発、②グリーン電力の購入、③グリーン証書の購入、という3つの手段を組み合わせている事例が多数あります。
 中国の気候変動対策に関しては、工場の操業停止など、これまで行政により強制的に行われるものがほとんどでしたが、カーボンニュートラルの目標達成に向けて、行政の強制手段だけでは機能しなくなり、こうした権益商品を積極活用し、市場化を有効な手段として行く方法が、今後加速するのは間違いないでしょう。

2.今月のトピックス
【人民銀行深セン支店】深セン市金融技術革新監督スキーム、革新技術応用第3回公示を発表
 深セン市金融技術革新監督スキーム作業部会は、3回目の革新的な技術応用事例を発表した。今回発表された革新的なアプリケーションとしては、主にビッグデータや人工知能などの最先端技術を用いたもの、グリーン融資のシナリオに焦点を当てスマートなグリーン企業の識別など、グリーン金融サービスの質と効率を効果的に高めるものに焦点が当てられている。
2022‐12‐6 中国人民銀行
http://shenzhen.pbc.gov.cn/shenzhen/122807/4729639/index.html
コメント:2017年、グリーン金融を推進する施策の一環として、深セン市、湖州市など5つの地域がグリーン金融モデル区として指定されました。これらの地域では、複数の実証が行われましたが、フィンテックを利用しグリーン金融を推進するというテーマがありました。ビッグデータやブロックチェーン、AIなどの技術を用いてグリーン資産やプロジェクトの識別、環境データの採集や処理、分析、グリーン資産の取引プラットフォームの構築などを行い、グリーン投融資商品やサービスの開発、グリーン金融政策の作成などに貢献するものでした。例えば、企業カーボンアカウントや個人カーボンアカウントは、湖州市や深セン市が最初のモデルとなり、全国に広がった事例です。深セン市の技術応用の発表では、この実証の一環がその内容となっています。

【深セン市】深セン市生態環境局とテンセントは、初の「個人炭素ポイント制排出削減量取引」を完了
 深セン市生態環境局、深セン排出権取引所、テンセントが共同で開発した「低炭素惑星」アプリが、炭素排出削減の最初の取引を完了した。「低炭素惑星」は、深セン市生態環境局の監督と第三者機関の認証のもと、個人消費者が蓄積した炭素削減量を深セン排出権取引所で取引し、取引で得た収益の全額を地下鉄切符として消費者個人に還元するもの。
昨年より、テンセントグリーン・トラベル・プラットフォームの技術支援により、100万人以上の深セン市民が「低炭素惑星」アプリを利用した。具体的には、市民はまず「低炭素惑星」アプリに個人情報を登録し、個人カーボンアカウントを開設する。次に、テンセント地図アプリとテンセント乗車アプリの連携で、公共交通利用によるCO2排出削減量が計算され炭素ポイントが蓄積されていく仕組み。市民が「低炭素惑星」のホームページで「Carbon Account」タブを選択すると、貯まった炭素ポイントを確認でき、ポイントで地下鉄切符と交換することが可能となっている。現在、深圳市民が貯めた炭素ポイントの最高記録は、8317ポイントで、これは累積で約1トンの炭素削減に相当する。69枚の地下鉄切符と交換することが可能。
2022‐12‐13 深セン市生態環境局
http://meeb.sz.gov.cn/isz/hbxw/content/post_10335645.html
コメント:個人カーボンアカウントは、金融機関を中心に熱心に開発が進められています。個人の衣食住など日常生活において低炭素な取り組みを通じて削減された排出量を定量化し、ポイントに変換し、そのポイントで金融機関のサービスを受ける際に利用したり、または排出権取引市場と連携し炭素削減量を市場で取引したりしています。これは、一般消費者のグリーン消費行動を促進するインセンティブとなります。全国十数の金融機関で実証が行われているところです。ただ、個人カーボンアカウントの運用にはいくつかの課題があります。一つ目はデータ収集です。個人のデータが細かく、広く存在するため、収集は容易ではありません。二つ目は炭素削減量の算定です。炭素削減量を定量化する際に、統一した基準はありません。金融機関ごとの基準で計算され、データが利用されているのが現状です。三つ目は経済性の問題です。現在は金融機関がその運営やインセンティブ費用を負担していますが、この事業を持続させるためには、収益をあげるようなビジネスモデルへの進化が必要になります。四つ目は、データの安全性です。多くの個人データを収集しているため、データ漏洩の懸念は拭えません。問題が生じれば、個人の購買履歴や移動履歴などのプライバシーが侵害されてしまう恐れがあります。
今回、深セン市の実証で、蓄積した削減量を炭素取引所で問題なく取引できたことは、カーボンアカウントの実用化に一歩、前進したものと評価できるでしょう。

3.今月のニュース
【生態環境部】「中国における生物多様性保護法」が公表

 国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第2フェーズの開幕に先駆け、最高人民法院は「中国における生物多様性保護法」と「生物多様性保護法典型事例」を発表。
2022-12-6 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/ywdt/hjywnews/202212/t20221206_1007017.shtml

【中国人民銀行】中国人民銀行副総裁上海バンドサミットでのスピーチ
 グリーン金融強制的基準を確立し、グリーン金融基準への取り組みを、自主性から強制性へ転換すると示した。
2022-12-10 中国人民銀行
http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/4733634/index.html

【中国証券投資基金協会】「2022年基金管理者のグリーン投資に関する年次自己評価報告書」を発表
 報告書によると、公募ファンド運用会社46社のうち、33社がグリーン投資の商品を運用または運用企画中で、2022年第2四半期末時点の運用中のグリーン商品の数は108、合計残高は2,045億元を超える
2022-12 中国証券投資基金協会
https://www.amac.org.cn/aboutassociation/gyxh_xhdt/xhdt_xhyw/202212/P020221213341035900020.pdf

【国家発展改革委員会】政府投資プロジェクトに炭素排出アセスメント要求
 公表された「政府投資プロジェクトフィージビリティスタディ報告書作成要綱(意見募集案)」において、政府投資プロジェクトについて、炭素排出とカーボンニュートラル目標達成のアセスメントを行うと定めた。
2022-12-27 国家発展改革改革委員会
https://www.ndrc.gov.cn/hdjl/yjzq/yjfk/dgzqyjtg/202212/t20221227_1344076.html

【中国企業ネットワーク】「中国上場企業の環境責任情報開示に関する評価報告書(2021年)」を公表
 同報告書によると、2021年度の上場企業の炭素排出情報開示は1,178社で、有効サンプルである1,415社のうち、83.25%を占め、2020年度の開示シェア(70.75%)と比べて 17.67%の上昇。
2022-12-27 中国企業ネットワーク
http://www.zqcn.com.cn/757/21901.html

【中国インパクト投資ネットワーク】「中国インパクト測定・管理(IMM)ガイド1.0」を発表
 プライマリー市場の投資家に、適用できるESGインパクトソリューションを提供するとの狙いを明確にしている。
2022-12-8 中国インパクト投資ネットワーク
http://www.ciin.com.cn/content/505

【安徽省】 安徽炭素ポイントプラットフォーム始動
 個人のグリーン・低炭素行動を記録し、個人カーボンアカウントを形成し、様々な特典と交換できる仕様である。
2022-12‐28 生態中国ネットワーク
http://www.eco.gov.cn/news_info/60969.html

【上海市】「上海新インフラカーボンピークアウト実施計画」を公表
 第14次5カ年計画期間中に、データセンターと5G基地局のエネルギー消費量とCO2排出管理を強化。
2022-12-8 中国証券報
https://news.cnstock.com/news,bwkx-202212-4993194.htm

紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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