リサーチ・フォーカス No.2022-052 中国ゼロコロナ政策転換のインパクトと含意 2022年12月27日 三浦有史中国政府は、2022年12月7日、「新10条」と称される通知により、ゼロコロナ政策の転換を図った。政策転換は抗議デモによって起こされたとされているが、根底には①ウイルスの感染力が変異により飛躍的に強まり、ゼロコロナ政策が機能しなくなったこと、②「世界の工場」としての地位を失いかねないという不安が高まったこと、③国民の習近平政権への信頼がかつてないほど低下したことがある。習近平政権がゼロコロナ政策に固執してきた背景には、①死者が極端に少ない独自の防疫政策の優位性を誇示したい思惑、②ゼロコロナ政策が機能しうると考えていたこと、③効果の高いmRNAワクチンを持たず、ウィズコロナ政策の採用が難しかったことがある。中国の防疫政策の失敗は、ゼロコロナ政策を採用したことではなく、同政策が機能している間に必要な準備をしてこなかったことにある。中国疾病予防管理センターは、2023年3月までに3度の感染拡大の波がくるとみている。感染率は最終的に80~90%に達し、集団免疫の獲得に対する期待が高まっているものの、ウイルスは変異を繰り返しており、それが感染収束の決定打になるとは考えにくい。中国は、世界の感染状況に左右されるかたちで感染拡大の波に見舞われるとみるのが妥当である。日本の致死率と中国の高齢者人口をもとに中国の死亡数を推計すると、死者は150万人に達する可能性がある。政府は集中治療病床を増やすなど、政策転換に合わせた準備を進めているとするものの、人口1,000人当たりの看護師は2020年で3.7人と、日本の12.1人の3分の1であることから、必然的に医療崩壊が起こり、それに伴う社会不安も広がるとみられる。2023年春以降も感染が完全な収束に向かうわけではないことから、中国経済がV字回復するとみるのは現実的とはいえない。個人消費および生産・物流機能の回復も期待ほどには進まないであろう。個人消費は、住宅費や教育費などの支出が増える一方で、社会保障制度が国民に安心を与えるセーフティーネットとしての機能を十分に果たしていないことから、先行きも中国の成長をけん引する役割を担えない。習近平政権は無謬性が問われる事態に直面している。具体的には、①感染による死者が米国を上回りかねないこと、②感染による死者の分類方法を変え、ついには死亡数の発表も取りやめたこと、③政策決定のプロセスや責任の所在が曖昧にされていることから、同政権には以前にも増して冷めた視線が向けられることになろう。3期目に突入した習近平政権は今まで経験したことのない厳しい立場に置かれている。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)