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中国グリーン金融月報【2022年11月号】

2022年12月13日 王婷


中国グリーン金融月報【2022年11月号】をお届けします。

1.王の視点
企業向けカーボンアカウントが登場

 個人向けのカーボンアカウントに続き、企業向けのカーボンアカウントが相次ぎ登場しました。2022 年 6 月、北京銀行が「京炭宝」を公表し、グリーン投融資サービスを開始したのに続き、9月には広州市の金融監督局と工業信息局が、11月には北京グリーン取引所が企業向けカーボンアカウントをリリースしました。
企業向けカーボンアカウントとは、企業の炭素排出量を総合的に記録するアカウントです。データ収集、会計、評価などの機能で構成されます。
 企業向けカーボンアカウントを構築する目的は以下3点と考えられます。
 一つ目は、企業の炭素排出量の把握とレポーティングを支援することです。企業や事業所はカーボンニュートラルの目標と対策が求められています。ただ、排出権取引にかかわった企業を除き、自社の炭素排出量の把握はできていないのが現状です。カーボンアカウントシステムは、これらの企業や事業所が自社の炭素排出量を把握でき、報告義務を負っている企業にとっては、報告書作成の負担を軽減することができます。
 二つ目は、金融機関の投融資などの商品の検討に役立つことです。金融機関は、自身と投融資先の炭素排出量に関する情報開示を政府に指導されていますが、融資先企業の炭素排出データを把握することが難しい局面も少なくありません。カーボンアカウントシステムを構築することで、金融機関が企業の炭素排出量を把握することが容易となり、投融資前後の評価、投融資の提供など金融商品やサービスの検討に役に立つものとなります。
 三つ目は、政府の政策策定に役に立つことです。政府が、炭素排出支援に関する金融政策や産業政策を策定するプロセスにおいて、これらのデータは根拠となるでしょう。特に、業種ごとの差別化政策を策定するには、こうした実績が参考になるでしょう。

 企業向けカーボンアカウントの整備を主導するのは、金融機関または政府の関連部門です。例えば、広東省のシステム構築は広州市金融監督局、工業情報局と広州市供電局との共同で行われています。北京市のシステム構築は、北京グリーン取引所が行いました。上述したように、アカウントはデータ収集、排出量試算、評価という3点が共通の機能です。具体的には、データ収集については、企業や事業所の生産活動に使用した電気、ガス、天然ガスなどのエネルギーデータをオンラインモニタリングや企業が持っている伝票類などで収集します。現状で収集されているのはスコップ1と2のデータのみとなっています。排出量の試算については、収集したデータに基づき、生態環境部または地方政府が定めた「温室効果ガス排出試算方法」に基づき、炭素排出量を算出します。試算された排出量を踏まえ、対象企業が所属する業界のベースラインに基づき、当該企業の炭素排出量の水準を評価します。他機関とは差別性のある機能も盛り込まれています。例えば、北京グリーン取引所のシステムでは、今後企業が取得した炭素クレジットを売買することを考慮し、取引用のアカウントも整備しました。広州市のシステムでは、金融と企業を連携させる機能が整備されており、それぞれ企業の炭素信用レポートを作成し、金融機関への参考として提供しています。
 中国政府は、カーボンニュートラル目標を実現するために、まず炭素排出の現状を正しく把握し、基礎データを整備することを最も重要視しています。企業向けカーボンアカウントはこのようなニーズにこたえるために誕生したのでしょう。今後全国に拡大していくためには、企業データの安全性の保護や、多岐にわたるデータの収集の困難さの克服、運営主体である金融機関などの収益モデルの構築などの課題を解決していくことになるでしょう。

2.今月のトピックス
【国家社会保障基金】ESG投資ポートフォリオ一般競争入札へ
 最近、国家社会保障基金がESG投資ポートフォリオについて、国内のパブリックファンド会社を対象に公募を行った。公募は2種類の商品が対象となる。一つは持続可能な投資商品、もう一つは戦略的新興商品である。20社のトップファンド会社が応募した。国家社会保障基金は、資産配分計画や運用商品戦略を策定し、外部運用会社が商品戦略に沿って運用を行う。
 現在、国内と海外の株式市場でそれぞれ持続可能な投資商品の試験運用を開始している。パイロット事業が完了した後、基金全体への適用に向けて徐々に拡大していく予定だ。
2022‐11‐20 中央財経大学国際グリーン研究院
https://iigf.cufe.edu.cn/info/1019/5984.htm
コメント:ここ4,5年中国国内ESG投資市場が活発になるにつれ、欧米や日本のように政府系年金基金がESG分野への投資を進めています。これをきっかけにESG市場はさらに活性化すると期待されています。同時に、国家社会保障基金を含め政府の金融機関が様々な研究を重ねてきました。2020年8月に、国家社会保障基金は「海外投資管理人の選定・選任に関る全国社会保障基金協議会の公告」を公表し、グローバル責任投資株式商品を設定し、海外投資管理者によるESG投資パイロット事業も開始しました。今年9月公表された「全国社会保険基金理事会実務投資ガイドライン」では、持続可能な投資を探求、ESG テーマのファンドへの投資を拡大すると明記しました。中国政府系年金基金が管理する資金規模は13兆元にのぼるといわれています。ESG市場への投資が本格的にスタートすれば、中国のESG投資市場は本格的にテイクオフするでしょう。

【中央国債登記清算有限公司】「中債グリーンボンド環境情報開示指標体系」をリリース
 グリーン金融分野における初めての企業開示基準である。現在の環境保護政策と産業政策に基づき、これまでの実績を十分に分析したうえ、グリーンボンドで調達した資金が投資したグリーンプロジェクトとして開示すべき環境関連の定量的・定性的な指標を提示した。“203 +2" の業界における44の指標を作った。必須指標と任意指標が含まれる。本企業基準は、グリーンボンドの環境収益の定量化評価、検証可能な基礎を築くものとなる。指標体系に基づいて、今後、さらに「中債グリーンボンド環境情報データベース」を構築し、グリーンボンド環境情報データを一元的に収集していく予定である。
2022‐11‐17 中国銀行保険報
http://www.cbimc.cn/content/2022-11/17/content_471776.html
指標体系の全文は以下のリンクをご参考
https://www.cnstock.com/image/202211/14/20221114162623157.pdf
コメント:これは「グリーンウォッシュ」を防止する施策の一環として作られたものです。指標体系は2つの柱で構成されます。プロジェクトの開示指標は、政府が公表した「グリーンボンド支援プロジェクト目録」に基づくものです。環境情報開示の指標は、グリーンボンドによる調達した資金を投資した際に開示すべき環境情報を指します。本指標体系の特徴の一つは、すべての指標を定量化するという点です。44の指標のうち、定量的な指標が43で、定性的な指標は1にとどまっています。指標を定量化することで、環境情報開示の品質の向上を狙うとともに、投資家がグリーンボンドを識別しやすくさせるような狙いがあるでしょう。必須指標と任意指標について、投資プロジェクトの特徴に基づき設計されています。

3.今月のニュース
【銀行保険管理監督委員会】「グリーン保険業務統計制度に関する通達」を公表

 全国の保険会社がグリーン関連の業務の統計を銀行保険監督委員会に報告するように指導がなされた。初期段階においては、①ESGに提供した保険サービス業務、②グリーン産業に提供する保険業務、③グリーン生活に提供する保険業務、の3つを対象に統計がなされる。2022年12月より試行、2023年7月より正式にスタートする。
2022‐11‐11 銀行保険監督委員会
http://www.cbirc.gov.cn/cn/view/pages/ItemDetail.html?docId=1081027&itemId=925&generaltype=0

【国家発展改革委員会】「新規再エネ消費量をエネルギー消費総量規制に対象としないことに関する通知」を公表
 エネルギー消費総量の規制対象としない新規再エネ発電消費量は、風力、太陽光発電、水力発電、バイオマス発電、地熱発電などの再エネによる発電とする。取得したグリーン電力証書を再エネ電力消費量の証明とする、と定められた。
2022‐11‐16 国家発展改革委員会
https://www.ndrc.gov.cn/xwdt/tzgg/202211/t20221116_1341324.html

【住宅建設部等】「14次5か年生態環境分野科技創新専門計画」を公表
 生態環境の健康、化学品の安全、気候変動など重大な生態環境問題に関する基礎研究を深め、環境汚染の防止と制御、生態系の保護と回復、固体廃棄物の削減と資源利用、生態環境モニタリングと予測、リスクコントロールなどのコア技術を研究開発することが目標とされた。
2022-11-8 住宅建設部等
http://www.gov.cn/xinwen/2022-11/08/content_5725324.htm

【グリーン金融委員会】「一帯一路グリーン投資原則(GIP)アフリカ支部設立を発表
 一帯一路グリーン投資原則(GIP)は、第27回国連気候変動会議(COP27)の期間中に、アフリカ支部の設立を発表した。アフリカにおけるグリーン投資機会の模索、アフリカの金融機構に対するキャパシティブルディングの支援、現地のグリーン金融基準と原則の策定の支援を目標とする。
2022‐11‐11 グリーン金融委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=3904

【北京グリーン取引所】企業カーボンアカウント及びグリーンプロジェクトデータベースシステムを構築・公表
 オンラインモニタリングや政府のビッグデータなどを通じて自動的企業の炭素排出量を算出するシステムである。金融投資機関に資金調達ニーズの発見、炭素会計と環境情報開示、貸出前の調査、融資審査、融資後検証にも貢献する。
2022‐11‐27 Sina財経
http://finance.sina.com.cn/jjxw/2022-11-27/doc-imqqsmrp7726635.shtml

【北京銀行】北京銀行が、カーボンニュートラル銀行に認定された
 北京銀行通州支店は、2021年に排出した温室効果ガス量を、取得した中国認定自主的排出削減クレジット(CCER)と相殺して、支店運営のカーボンニュートラルを実現した。北京グリーン取引所と国家金融科技認証中心が認証を行った。
2022‐11‐25 北京副都心報
https://www.bjwmb.gov.cn/dongtai/tongzhou/10015007.html

【スタンダードチャータード銀行】「2022持続可能な投資及び個人金融調査報告書」を公表
 報告書では、2030 年までに約 8.2 兆米ドルの個人資金が持続可能な投資に投資されると予想され、うち中国本土市場は 5 兆 6,500 億米ドルを動員するとした。今回調査した10 カ国市場の中で最大の規模という。
2022‐11‐25 中国証券
https://news.cnstock.com/news,bwkx-202211-4985931.htm

紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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