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地域トークンを活用した個人の環境配慮活動の後押し

2022年11月22日 七澤安希子


 21世紀に入って、企業は社会的責任を有しているという考え方が支持されるようになり、さまざまな環境政策が、企業への義務もしくは企業の協力を前提として推進されてきている。それに比べれば、個人に社会的責任として、環境政策への協力を求めるという傾向は、わが国では明確にはなっていない。言い換えれば、個人の自由意思に委ねられている。そのため、高い環境意識を持つ人を除き多くの人は、環境配慮行動を行うか否かは、費用対効果、もしくは自身に対してどういう金銭的メリットがあるかを踏まえて判断されるというのがこれまで一般的であった。
 しかし、近年は気候変動に伴う災害の頻発により、将来の危機を自分事として捉え、多少の負担があっても環境保全に積極的に貢献したいと考える人は増えてきているのではないだろうか。かくゆう私も、レジ袋の有料化でエコバック持参が習慣化した以上に、もっと他にやれることはないかと考えるようになった。私のような環境配慮活動にライトな関わり方しかしてこなかった人に対し、そっと背中を押し選択肢を提示する、そのための受け皿が求められているのではないだろうか。

 その一つの方策として私が注目しているのは、ナッジ理論を活用した環境課題解決への住民参加の仕組みである。例えば地域内の電力需給調整に協力した住民に地域トークンが発行されるというアイデアがある。電力需給調整に電気自動車(EV)蓄電池を活用する場合、地域内の電力が不足する時にはEV蓄電池の蓄えられた電力を自ら利用し、地域内の電力が余る時にはEVの蓄電池に蓄えられるよう、EVの利用制限をあえて許容して放電に協力する。そうしたEV利用者に対し充放電量に応じた地域トークンを提供するというものである。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、昨今では太陽光発電(PV)のような、気候状況により発電量が変動する変動性再生可能エネルギーの導入が進みつつあるが、変動の調整弁として有望な蓄電池を効果的に活用することが地域の再エネ最大化に繋がると考えられている。そのため、EVの充放電協力は、立派な環境課題解決への参加と言える。
 加えて、地域トークンに注目する理由はそれが有する性質にある。地域トークンは電子マネーやポイントと異なり、法定通貨とは切り離して発行・流通させることが可能であり、金銭では置き換えられてこなかった価値を地域トークンでは表現することができる。EVの充放電協力が単なる個人の環境配慮行動ではなく地域の再エネ最大化の促進という地域貢献の側面も持ち合わせていることに光を当て、地域トークンという形で証明されるというのは、個々人の価値観に何らか響くものがあるのではないだろうか。勿論、地域トークン自体は、地域経済で利用可能な価値の流通の仕組みも必要となる。地域トークンがインセンティブとして機能するようになれば、個々人の次なる環境配慮行動の後押しとなるに違いない。

 日常生活の中で、環境や地域に一歩近づき、その改善にコミットしてみようかなと考える人は増えてきているだろう。先に述べたような、少しの負荷(需給調整への協力)で少しのインセンティブ(地域トークン)が得られる程度の仕掛けが、そういった個々人の受け皿となり、サステナブルな環境配慮活動に繋がることを期待しながら、実装に向けて取り組みを進めていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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