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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.22,No.87

中国の若年失業率上昇の深層 ―顕在化する「勤勉さ」を巡るすれ違い―

2022年11月11日 三浦有史


中国の若年層の都市調査失業率は、2022年7月に19.9%と過去最高の水準に達した。背景には、新型コロナウイルスの感染拡大だけでなく、若年層は採用されにくく、解雇されやすい脆弱な立場にあることがある。若年人口が増加局面に入ることから、若年失業率は今後10年にわたり高止まりの状態が続く。

雇用における第3次産業が果たす役割は大きくなっているものの、その雇用創出力は急速に低下している。IT産業は市場飽和による業績悪化に、習近平政権が掲げる共同富裕によるビジネスモデルの見直しが加わり、人員削減を余儀なくされている。

労働市場が人手不足であるにもかかわらず、若年失業率が上昇するのは求職側と求人側のニーズが合わないミスマッチが原因である。しかし、このことは一人っ子として大切に育てられた若者が現実を受け入れられず、求職活動を諦めやすいことを意味するわけではない。

ミスマッチの主因は、ブルーカラーとホワイトカラーという職種分類に対する固定観念が強く、「ブルーカラー=社会の底辺」と位置付けられていることがある。これを定着させたのは、農村からの出稼ぎ労働者を都市の社会保障制度に組み込むことを怠る一方で、学歴至上主義をエリート選抜システムとして活用してきた政府の労働および教育政策である。強いホワイトカラー志向は若者の自己認識能力の欠如によるものではない。

中国における若年失業の問題は、社会、経済、政治を支えてきた「勤勉さ」という価値観を揺るがしかねない問題を含んでいる。若者に「勤勉さ」を求める習近平政権と、働きたいにもかかわらず、それがかなわず、存在理由が見いだせない若者との溝は深まる一方で、2022年前半は「腐らせる」を意味する「擺爛」(バイラン)が流行語となった。

習近平政権は反「擺爛」宣伝を強化しているものの、そこで示される「勤勉さ」を失っているという若年層像は必ずしも彼らの深層心理を正確に捉えておらず、若年層の疎外感は一段と高まると見込まれる。国有企業や公務員を目指す安定志向も、共産党や政府が示す中国経済の未来を大学生が信用していない点、そして、国有企業や公務員は有形無形の制度に守られた特別な存在であると大学生が認識している点で、中国経済が抱える歪みを映している。

習近平政権は4%台の成長率を維持することで十分な新規雇用を創出するとともに、若年失業率を引き下げなければならない。しかし、ウイズコロナ政策への転換や不動産開発企業に代表される過剰債務の削減など、求められる政策の難易度は非常に高い。


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