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人的資本経営の未来 ~イノベーションの起点は「プロアクティブ人材」~

2022年08月01日 宮下太陽


人的資本経営の要としてのプロアクティブ人材
 昨今、人材を「資本」として捉えて企業経営を行う「人的資本経営」が注目を集めるようになった。人的資本経営では、経営戦略の実現に必要な人材ポートフォリオを明確にした上で、それに当てはめるように教育等の投資を行う。経営戦略に沿った形で人材の付加価値を引き出すことで、中長期的な企業価値の向上を目指す経営のあり方である。
 人的資本経営への関心の高まりは、企業の人材戦略の考え方が、新卒一括採用を基本とした「人の成長が会社の成長」という従前のものから、「目標とする事業・仕事に応じて人をアサインする」という人材戦略と経営戦略を両輪とするものに変化しつつあることを示している。実際、筆者が関わる組織人事コンサルティングにおいても、人事と経営企画の責任者が両方プロジェクトに入るケースが増えている。
 この人的資本経営を、現場の視点によって高度化させる存在が、自ら考え主体的に行動し、自律的に自らのキャリアを構築していく「プロアクティブ人材」である。外部環境の不確実性が高まる中で、上からの指示を待つだけではなく、現場での変化の兆しを捉え、イノベーションの起点となって企業価値の向上につながる行動を自らとれる人材の価値が高まっているからである。

調査から見えたプロアクティブ人材育成の留意点
 プロアクティブ人材の行動様式や企業にもたらす効果などについては、既に国内外で研究が進められている。筆者らはそれらの先行研究を踏まえ、企業経営でも活用できるプロアクティブ人材の指標を作成した。この指標は、革新行動(仕事を前向きに変える行動)、組織化行動(関係者と連携しながら仕事を進める行動)、外部ネットワーク探索行動(外部の人と積極的にネットワークを構築する行動)、キャリア開発行動(自身のキャリアに必要なスキル・知識を身に付けようとする行動)の 4 つの観点から構成されている。
 この指標を活用し、20,400 人を対象としたプロアクティブ人材に関するマクロ調査を2022 年 1 月に行った。多岐にわたる分析結果のうち、本稿では企業価値向上の観点からプロアクティブ人材を育成する上での留意点を述べたい。
 1点目は、年齢階層が高くなるほどプロアクティブ行動が低下する傾向がみられたことである。特に業務上中核的な存在であることが多い 40 代が最も低い値となっていたこと、また新たな価値を生み出す基礎となる外部ネットワーク探索行動とキャリア開発行動で低下幅が大きかったことは、組織運営に問題があることを表している。入社当初はプロアクティブであった人材を、その良さを維持したままいかに育成していくかが、今後の重要な経営課題の一つになる。
 2点目は、プロアクティブ行動(特に革新行動)と自身のエンゲージメントや組織での評価との間に正の相関がみられたことである。また、職位が高いほどプロアクティブ度が高い傾向もみられた。このことから、プロアクティブ行動が組織での活躍を予測する先行指標として機能し得ることが分かる。
 3点目は、プロアクティブ行動と「挑戦しての失敗は許容される文化」との間に正の相関がみられた一方、転職回数とは相関がみられなかった点である。プロアクティブ人材の育成には、「自律的な人材をせっかく育成しても転職してしまう」との懸念が付きまとう。しかし、今回の結果からは、プロアクティブ人材が転職するのは、単純にキャリアを求めてのことではなく、組織側に問題(新たな挑戦を歓迎しない組織風土など)があるケースも多いことが推察できる。

従業員のプロアクティブ度を把握し現場に還元
 プロアクティブ人材を育成するために一番重要なことは、従業員のプロアクティブ度をアンケートによって定期的に測定することである。適切な対策を行うには現状を正確に把握することが欠かせないからであるが、こうした調査を行っている企業は決して多くはないのが実態である。
 次に重要なのが、測定したデータを現場のマネジャーに還元し、日々のマネジメントの中で活かすことである。例えば、個人面談では、業務に関する話題だけでなく、キャリアに関する話題を取り上げることが、コミュニケーションの質を上げ、実際の生産性にポジティブな影響を及ぼすことが確認されている。
 従業員一人ひとりのプロアクティブ度の状況を適切に踏まえながら、それぞれの水準を高める努力を現場のマネジャーレベルで積み重ねていくことこそが、中長期的な企業価値向上につながる道と考えられる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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