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日本総研ニュースレター 2022年7月号

期待高まるバイオマス産業
~既存産業との融合で地域経済活性化を目指す~

2022年07月01日 福山篤史


地域経済活性化の役割に期待の一方、事業性には懸念
 2002 年に発表された「バイオマス・ニッポン総合戦略」を皮切りに、バイオマスの利活用が推進されてきた。バイオマ スは、カーボンニュートラルの実現、枯渇性資源からの脱却、地政学的リスクへの対策といった近年の主要な社会課題の解決に不可欠とされ、実際に、燃料、製品、肥料など各方面からの需要も高まっている。
 その中で、各地域で分散的に生じるバイオマスを高付加価値な商材に変換し、地域経済活性化の起爆剤として活用することが期待されるようになってきた。例えば、2009 年に策定されたバイオマス活用推進基本計画では、2025 年までに全都道府県および 600 市町村がバイオマス活用推進計画を策定する目標を打ち出している。
 しかし、目標達成には既に黄信号が灯る。財政負担や事業性への懸念等から消極的な自治体も多く、2022 年2 月時点で計画を策定したのは、19 道府県・74 市町村に留まる。

既存産業との融合が実現の鍵
 バイオマス利活用による地域経済活性化を実現させるには、各地域のバイオマスの量・種類や既存産業の特性を見極め、融合していくことが重要である。具体的には、「(1)既存産業のアセット・商流等の活用」「(2)既存産業の価値向上」の 2 つの視点から取り組むことになる。
(1)既存産業のアセット・商流等の活用
 バイオマス産業が抱える課題の一つは、設備購入や輸送網構築に初期費用がかさむことで製品単価が高くなり過ぎ、市場に受け入れられなくなる、という構造である。この構造から脱するには、既存産業のアセット・商流の有効活用が鍵となる。
 原料調達過程では、地域内で分散して生じるバイオマスを、既存産業の静脈輸送用車両の空きスペースを活用して回収する方法が考えられる。低密度で生じるバイオマスを中密度まで高めることによって一定の生産規模を確保することで、バイオマス産業の収益性向上が期待できる。
 また、生産・加工の過程でも、既存産業の設備・技術を転用できる余地がある。例えば、製紙工場で古紙などを粉砕する設備を、セルロースナノファイバー(CNF)製造の前処理過程に活用した事例もある。
 小規模でも事業をスタートさせることで、素材・製品の用途開発が進み、さらには評価・認証の制度整備も進む。そうして醸成された需要を見込む企業が新規に設備投資を行っていけば、より一層の単価減少・需要創出につながる好循環を生むことになると考えられる。
(2)既存産業の価値向上
 バイオマス産業の価値を、地域産業の周辺価値を共に高めていく視点も重要となる。例えば、一次産業における農作物のブランディングにつなげる、二次産業における製品の高機能化に役立てる、三次産業の宿泊施設・観光施設の体験価値向上に役立てるなど、バイオマスの利活用を起点に周辺産業も活性化も狙う視点である。
 既に愛媛県では、木材や柑橘果皮のバイオマス原料を、周辺産業の活性化につなげる取り組みを始め、一定の成果を上げている。例えば一次産業では、柑橘加工時に発生する搾りかすを入れた餌で育てた「みかん魚」の生産・販 売が盛んである。血合いの変色抑制、魚独特の生臭さ軽減などの効果から、養殖魚のブランド向上に役立っているという。また、二次産業では、県と民間企業が中心となり、木質パルプ由来 CNF を地場産業である今治タオルの高機能化に活用する研究開発を進めている。さらに、柑橘類の加工時に生じる果皮を用いた CNF を化粧品や食品に応用する研究も進められ、2021 年4 月に保湿クリームやボディーソープをはじめとした製品の販売もスタートした。今後は、一・二次産業に加え、木質パルプ由来CNF を採用したタオルや、柑橘果皮由来CNF を用いた化粧品を宿泊施設で利用する、といった三次産業への展開も期待される。

 現在は燃料・肥料・飼料に活用方法が偏る状況であるが、このように既存産業のアセット・商流を有効に活用しながら既存産業の価値を高める視点を持てば、地域内のバイオマスを生かした地域経済活性化も実現可能といえる。そのためには、地域と企業が一体となり、バイオマス利活用の効果を最大化する地域独自の戦略を打ち立てることが求められる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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