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JRIレビュー Vol.8,No.103

プライマリ・ケアにおけるデータ整備・活用に向けて
家庭医登録制の導入と一体で推進を

2022年09月21日 成瀬道紀


医療サービスの質向上と医療費の効率化の両立はわが国の喫緊の課題であり、その実現に向けたインフラとして、医療データの整備・活用の重要性が多方面で議論されている。わが国では、とりわけプライマリ・ケアと呼ばれる外来医療や在宅医療など患者にとって身近な分野において、医療データの整備・活用の遅れが顕著である。

プライマリ・ケアは、多くの国で、家庭医と呼ばれる幅広い健康問題に対処できる医師により多職種連携のもと提供されている。患者は疾患の種類を問わず、まず事前に登録した家庭医を受診し、重症等の場合に限り病院の専門医を紹介される。家庭医に患者の情報が集約されやすい制度といえる。翻って、わが国では登録制が採られていない。プライマリ・ケアの主たる担い手として期待される診療所はそれぞれの専門科を標榜し、患者は症状ごとに複数の医療機関を受診する傾向がある。多くの診療所でカルテの記載様式は任意で標準化されておらず、電子化されていないため、プライマリ・ケアのカルテのデータベースの構築や医療従事者間の共有が困難な状況にある。その結果、医師が患者の全体像を把握しにくいなどの弊害をもたらしている。

プライマリ・ケアの先進国として広く知られ、医療データの活用に積極的に取り組んでいるオランダとイギリスの事例を踏まえると、わが国のプライマリ・ケアのデータ整備・活用に向け、以下の三つに取り組むことが有効と考えられる。第1に、すべての国民が家庭医を登録する家庭医登録制の導入である。家庭医の役割、すなわち個々の患者への継続的なケア、地域住民全体の健康管理、専門医との連携を果たすには、そもそも電子カルテは欠かせず、家庭医登録制は標準的な電子カルテ普及の後押しとなる。実際、家庭医登録制を採用する多くの国で、電子カルテがほぼすべての診療所に普及している。

第2に、家庭医のカルテによる患者情報の要約を全国的な医療データ共有基盤に提供し、医療機関・薬局などの間で共有する制度の構築である。まず、家庭医は、紹介した病院の専門医による治療の状況も含め、患者が受けた医療行為とその結果を切れ目なく把握できる立場にあり、他の医療従事者は、家庭医のカルテだけで患者に関する必要十分な情報を得られる。次に、データ提供に必要となる標準的な電子カルテを普及させる政策的なターゲットを家庭医に絞り込むことで、コストを節約できる。

第3に、家庭医向け標準的電子カルテの認定と普及である。国は、医療データ共有基盤に患者情報の要約を自動的に提供できる電子カルテの規格を公開し、要件を満たしたベンダーの製品を認定する。上記の電子カルテ導入費用は国による補助も検討すべきである。



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