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アジア・マンスリー 2022年9月号

コロナ禍を経た中国・インドの人口動態

2022年08月26日 熊谷章太郎


近い将来、インドは中国を超えて世界一の人口大国になることが確実視されているが、その後、二国間の人口差は従来予想よりも早いペースで拡大する可能性がある。

■コロナ禍が人口動態に及ぼす影響
コロナ禍は様々な経路を通じて各国の人口動態に影響を及ぼしている。その影響の表れ方は一様ではなく、各国の経済および社会の発展段階などに応じて異なっている。

コロナ禍で出生が抑えられる経路として、①所得環境の悪化や活動制限の発動によりパートナー・配偶者との出会いの機会が喪失し、晩婚化や未婚化が進む経路、②未知のウイルスが妊婦・新生児に与える悪影響などを背景に「産み控え」が増加する経路、などが挙げられる。

こうした経路を通じた少子化は所得水準の低い新興国で生じやすいと考えられる。もっとも、新興国では、出生抑制に向けた取り組みが停滞することによる影響も勘案する必要がある。コロナ禍の発生当初、活動制限により避妊薬や避妊具の供給不足が広がり、予期せぬ妊娠が急増することが予想され、人工妊娠中絶に対する規制が厳しい国では出生数がむしろ増加するとの見方が広がった。なかでも、東南アジアでは、フィリピンやインドネシアでベビーブーム到来の可能性が報じられた。これまでのところ、こうした動きは統計で確認できず、新興国でも少子化が進んでいると考えられるが、アフリカや南アジアにおける戸籍制度の未整備や活動制限を受けた出生届の未提出の可能性などを考慮すると、出生数に関する統計上の動きは幅を持ってみる必要がある。

次に、コロナ禍が死亡に及ぼす影響をみると、感染拡大が顕著で医療体制が脆弱な国を中心に各国の死亡者数が増加した。しかし、新型コロナによる重症化率や死亡率が低位にとどまった国では、人々の衛生面の意識の高まりや感染予防に向けた種々な取り組みを受けて、他の感染症の罹患率が低下し、結果的に死亡率が全体として低下するケースも見られた。

このほか、コロナ禍は人の国際移動の縮小を通じて、移民の受け入れ国・送り出し国双方の人口に増加・減少圧力をもたらしている。

今後、コロナ禍が収束に向かうなかで、人口動態に及ぼす影響も低下していくと考えられるが、人生に対する価値観や生活様式の変化、医療提供体制の見直しなどが中長期的な出生率や死亡率に影響を及ぼし続けると考えられる。

■中国で人口減、インドで人口増の見通し
こうしたなか、2022年7月、国連はWPP(World Population Prospects、世界人口推計)を3年ぶりに改訂した。中長期的に世界人口の増加が続くとの見方に変化はないものの、従来の見通し(中位推計)が2100年にかけて約110億人に増加すると予測していたのに対し、最新の見通しは2080年代後半に104億人でピークアウトする予測に修正された。

世界人口が下方修正された最大の要因は中国の人口減少ペースの加速である。国連は従来の推計で中国の合計特殊出生率が中長期的に1.7~1.8の間で安定的に推移し、2100年においても10億人超の人口を維持すると予測していた。これに対して最新の推計では、コロナ禍の影響を受けて急低下した出生率の回復ペースは緩やかなものにとどまり、2100年時点の人口は約8億人に減少するとの予測に修正された。

他方、近い将来、中国を超えて世界一の人口大国になることが確実視されているインドの人口見通しは上方修正された。出生率の見通しが下方修正されたにもかかわらず、総人口が上方修正された要因として、粗死亡率の見通しが引き下げられたことを挙げられる。新型コロナの感染拡大を受けて足元の死亡率は一時的に上昇しているものの、コロナ禍をきっかけに医療インフラの整備に向けた動きが加速しており、中長期的な死亡率は従来予測よりも低下すると見込まれている。

今回の人口予測の改訂は、インドが中国を抜き去った後、二国間の人口差の拡大が従来予想よりも速いペースで進む可能性を示唆している。インドは人口の多さに起因する経済・社会問題やビジネス環境の課題を抱えているほか、今後、自動生産技術が産業発展のカギになる可能性があることなどを踏まえると、二国間の人口格差の変動に伴ってアジア経済の重点が中国からインドにシフトするとは限らない。しかし、世界規模の食料問題、エネルギー問題、環境問題など多岐にわたるグローバルな分野でインドの重要性が一段と高まっていくことに疑いの余地はない。
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