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デバイス一体型のDX実現に向けた一歩

2022年08月23日 大原慶久


 デジタルトランスフォーメーション(以降、DX)銘柄が、経済産業省、東京証券取引所及び独立行政法人情報処理推進機構により今年も選定され、6月に発表された。DX銘柄の選定は3年目、それ以前の同様の取組(「攻めのIT経営銘柄」の選定)から数えれば8年目となる[1]。DXに対して「取り組む予定がない」とする企業は、年々減ってきており、各社がDXの価値への理解を深め、その取り組みについて検討を進めている状況にあるといえよう[2] 。実際にも、在宅勤務のためのリモートツールやAIを利用した業務効率化ツールなどの導入が進み、その過程で、デジタル化(デジタイゼーション)を前提とする環境に、自然に抵抗感が薄れていったのではないかと考える。
 クラウドサービスのみで実現可能なDXのための業務効率化ツールやスマホアプリの場合、その多くは開発チームと運用チームがお互い連携し、システムの開発やソフトウェアの品質を高めるDevOps開発手法を採用している。継続的なシステム開発、ならびに継続的なシステム提供を可能にするCI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デリバリー)ツールの整備や普及が進んだ結果、迅速なシステムリリースが可能になった。また、システム提供者は製品版のリリースを待たずとも、動作が多少不安定な段階で積極的にリリースをし「使ってもらう→フィードバックをもらう→開発に反映する→使ってもらう」というエコシステムを構築している。このためプロトタイプ開発から製品版作成までが途切れなく進行していく。
 一方でセンサーやモーターなどのデバイスに組み込まれるIoTシステムやロボティクスなどでは、プロトタイプ開発やPoC(Proof of Concept:概念実証)は積極的に行われているものの、クラウドサービスと比べると、開発スピードは遅く、製品品質もいわゆる量産品質に達していないことが少なくない。クラウドサービスと比べ投資額が大きく、投資回収の不確実性があり、さらに技術的に解決すべきハードルが高いことも多い。このためクラウドサービスで実現されているようなエコシステムを構築しづらい状況が散見される。
 このようなデバイスを用いたツールの実証は各地で行われており、使用時の効用や経済効果までは検証されているものの、実際に導入する際の、調達、管理、継続利用に関する課題は、想定や算出の域に留まることが多いのも事実だ。検証では評価用に想定されたシナリオを用いることも多く、実際の作業工程との乖離が大きいケースも少なくない。
 これら問題に対応し、実際のユースケースを可能な限り反映して実証を行うことで、費用負担者や導入により業務内容に変化が生じる現場に対して、初めて納得感や受容的な雰囲気の醸成が生まれるのではないかと考える。
 現在シニアヘルスケア領域で介護予防や孤立支援といった社会課題の解決のため、ユーザ用デバイスを入り口とした対話AIサービスの利活用を検討、推進している。デバイスを用いたツールの一例であり、上述した調達、管理、継続利用の視点から機能検証や効果検証がある程度完了したサービスを、ここでは選定し、具体的な地域を定め地域サービス提供企業や自治体と連携した地域導入検証モデルの検討を進めている。また地域導入検証のなかではツールの機能や価値のみならず、地域導入の評価指標が必要であり、指標の開発にも取り組んでいる。
 デバイスを用いたツールは、費用対効果が曖昧だったり、導入に伴う業務組み直しなどの負担感が大きかったりして、導入決断には勇気が必要なのも実情だ。ただ、ブレーキとなる要素をひとつずつ減らし、デバイス一体型DXが実現できないか取組みを進めていく。

[1] 商務情報政策局. “デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)”. 経済産業省. 2022. (参照2002-8-21).

[2] 情報流通行政局. “情報通信白書令和3年版”. 総務省. 2021. (参照2002-8-21).


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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